2013 Fiscal Year Research-status Report
バルトリハリ言語哲学の原像と虚像―『ヴリッティ』と『ティーカー』の比較研究
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24520053
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小川 英世 広島大学, 文学研究科, 教授 (00169195)
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Keywords | バルトリハリ / 言語哲学 / 能成者 / カーラカ / メタ存在論 / svapratyaya / 準拠枠 |
Research Abstract |
2012年度は、文意としての「直観」(プラティバー)に焦点を当て、バルトリハリ言語哲学の「虚像」の一端を明らかにした。本年2013年度は、同哲学の「原像」そのものを掘り下げて考察することを目指し、「形而上学的直観」の考察へと研究の歩を進めた。 バルトリハリは、文意としての「直観説」を締めくくるVP 2.152に対する『ヴリッティ』で次のことを指摘する。(a) 直観は多種多様である。(b) 直観は伝承されるもの(アーガミカ)である。(c) 直観は文から理解されるべきものである。(d)直観は言葉の変容態の根源である〈言葉原理〉(シャブダ・ブラフマン)に内在するものである。(e)直観が起こるとき、それは微細な形で、その根源の「異現」(ヴィヴァルタ)として起こる。(f)さらにこの後、直観は、時間的な存在と化し、音素から文に至る言語的連続態の相を帯びて、文と一体化し、明確に知覚される形で繰り返し現出する。極めて難解である。 本研究は、(c)に着目し、バルトリハリの「形而上学的直観」とは、言わば「言語化衝動」とも言われるべきものであり、彼の「仮現(ヴィヴァルタ)説」と密接に関係している、と想定した。そこで、本研究は、バルトリハリの「ブラフマンは〈世界〉の体系化の源である」という基本テーゼ自体を解明する必要に迫られた。本テーゼに関しては中村元の「それより世界の創造の起るところの(根源)」というヴェーダーンタ的解釈が一般的に受入れられて来た。しかし、中村のこの解釈はバルトリハリの言語哲学の原像から遠く、このテーゼは以下のように理解されるべきことが明らかとなった。 言葉を源とする体系(文化)の中にあって、ヴェーダという基層を共有しながらも、様々な世界観によってその体系は様々に解釈される。そして、その様々な世界観は様々な伝統(アーガマ)として確立されてあるものであり、如何なる伝統を受入れるかによって、個々人の世界観は制約される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、1.バルトリハリの核心的文論の原像を明らかにし、2.『ティーカー』はバルトリハリ文論の虚像を提示していること、3.よってバルトリハリ文論は『ヴァーキャパディーヤ』と『ヴリッティ』との一体的読解によってのみ理解されるべきことを明らかにすることを具体的目的とする。 本年2013年度は、「形而上学的直観」に焦点を当て、バルトリハリの核心的文論の原像を探る試みを行なった。 この試みは、バルトリハリの文論が彼の言語哲学の根幹として位置づけられること、そして彼の文論は「言葉とは何か」という根源的な問いを考察することなくしては解明し得ないことを明確に示した。 バルトリハリによれば、我々が生きる世界は「言葉の意味の体系」(文化)そのものであり、この体系は古典インドにおいては、ヴェーダ聖典、学問的言説、日常的言説の三層からなるものであり、ヴェーダ聖典がその体系の基層をなす。これらのことを解明できたことは、本年度の研究の最大の成果である。 さらに、バルトリハリによれば、「言葉の意味の体系」は伝承されるものである。つまり、我々は文化的伝統の中に生きている。このことは我々の世界観が伝統から自由ではあり得ないことを示す。世界観が伝統に拘束されるということは、言葉が世界を了解する準拠枠の介入を許すことを意味する。本研究は、このことの理由としてバルトリハリが言葉には本質的な欠陥があると考えていることを明らかにした。その欠陥とは、対象の抽象と捨象、対象の確定、顛倒、非存在である。「言葉の欠陥」という概念は、インド哲学一般における言語理論を考察する上で、極めて有益な視点を与えるであろう。これは本研究が当初予想していなかった成果であり、研究の展開がもたらした二次的な成果であっても、意義のある成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
イ・ジェヒョン(バルトリハリ時間論、広島大学大学院)、川村悠人(インド詩論・文法学、広島大学大学院)、友成有紀(学振PD)、石村克(インド真理論、広島大学大学院)、尾園絢一(ヴェーダ学、東北大学大学院文学研究科助教)を主たる研究協力者として、2012年度は計2回の研究会(「マハーバーシャ研究会」)を開催したが、本年2013年度も彼等との研究会が本研究に極めて有効に機能していることが実証された。2014年度も彼等との研究会を本研究推進の母体として行く。 平成2013年度に行なった「形而上学的直観」の研究は、バルトリハリの言語哲学そのものをその根底から考察することの重要性と不可避性を明らかにした。課題として浮かび上がったのは、「仮現説」における言語化衝動をどのように説明すべきかという問題である。この問題の解明のために、『ヴァーキャパディーヤ』第1巻第14詩節、同巻144詩節、そしてさらに第2巻第152詩節とそれらに対する『ヴリッティ』を取り上げる。世界的に見ても、これらの箇所でバルトリハリが主張する「形而上学的直観」はまったく注目されていない。難解ではあるが、攻め口はあると考える。本年度は「形而上学的直観」研究の深化に当てる。 本年2014年度は、二つの国際学会において研究発表をする予定である。国際的なアカデミズムの中で、本研究の意義について国際的な認知を獲得できるよう国際的発信にも努めて行く。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度は計2回の研究会を広島で開催したが、研究分担者として参画している「インド哲学諸派における〈存在〉をめぐる議論の解明」(科研A(一般))との有機的な連携により、研究会開催費用(旅費他)が合理的に使用できたため、次年度使用研究費が生じた。 2014年度の研究計画として、ドイツのハイデルベルク大学で開催される「第5回国際ダルマキールティ学会」(8月25~29日)への参加が予定されている。可能な限りの人数の研究協力者に同国際会議での研究発表を可能ならしめるために、上記の次年度使用研究費を使用するものとする。
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Research Products
(8 results)