2014 Fiscal Year Research-status Report
バルトリハリ言語哲学の原像と虚像―『ヴリッティ』と『ティーカー』の比較研究
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24520053
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小川 英世 広島大学, 文学研究科, 教授 (00169195)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | バルトリハリ / 言語哲学 / ディグナーガ / アポーハ論 / 領域外不使用原則 / 言説 / 虚構 |
Outline of Annual Research Achievements |
2012年度は、文意としての「直観」(プラティバー)に焦点を当て、バルトリハリ言語哲学の「虚像」の一端を明らかにし、2013年度は、同哲学の「原像」そのものを掘り下げて考察するために「形而上学的直観」の問題を取り上げた。本年度2014年度は、バルトリハリの文論の「原像」を彼とほぼ同時代の仏教論理学者ディグナーガ(470-530)に探る試みを行なった。 ディグナーガが彼の言語理論である「アポーハ論」を構築するに際して、バルトリハリの言語理論の影響を強く受けていることはよく知られている。ディグナーガは、文・文意からの下位の言語単位・下位の言語単位の意味の措定に関する「抽象(アポーッダーラ)理論」、語の意味間の限定関係を文意とする「抽象理論」を前提した文意論、「直観」を行動論的な文脈における文意とする文意論を受け入れる。バルトリハリの言語理論は言うまでもなくパーニに文法学の伝統に立脚したものである。端的に、ディグナーガの「アポーハ論」は、パーニニ文法学の〈言葉の領域外不使用の原則〉に立脚した構築されたものであると言うことができる。パーニニ文法家にとっても、ディグナーガにとっても、言説の世界は虚構である。ディグナーガは、その虚構の世界の内部に有効かつ妥当するその虚構の世界を合理的に説明できる言語理論としてアポーハ論を提示した。 注目すべきは、バルトリハリが上記原則を前提に「ヴァーヒーカ人は牛だ」といった転義的表現の構造を分析する詩節(VP 2.255)の解釈において、プニアラージャがその原則に着目できず(彼が『ヴリッティ』を参照していないことは明白)、またしても「虚像」を提示していることである。仏教論理学者ディグナーガに「原像」が活写され、「パーニニ文法家」とされるプニアラージャに「虚像」が提示されるこの事実は、インド思想史の構築において注意されなければならない一点であろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、1.バルトリハリの核心的文論の原像を明らかにし、2.プニアラージャは『ティーカー』においてバルトリハリ文論の虚像を提示していること、3.よってバルトリハリ文論は『ヴァーキャパディーヤ』と『ヴリッティ』との一体的読解によってのみ理解されるべきことを明らかにすることを具体的目的とする。 本年度2014年度は、バルトリハリと同時代の仏教論理学者ディグナーガにバルトリハリの核心的文論の原像を探る試みを行なった。 ディグナーガが彼の言語理論「アポーハ論」の構築に際して、パーニニ文法学において確立されていた〈言葉の領域外不使用の原則〉に立脚したこと、それが可能となったのは、彼がプニアラージャ以上に「バルトリハリ学徒」であったことを、学界で初めて明らかにし得たことは、本年度最大の成果である。 関連してプニアラージャが、彼が生きた時代の学的環境の影響を免れず、彼の時代に適合した形でしかバルトリハリの思想を語り得ない限界が明確になったことは、研究開始時に予想した以上に「虚像」の度合いが深刻であることを示し、従来のバルトリハリ文論研究を根本的に見直す必要性を突きつけていることが明らかになった。このことは、成果というより、大きな課題を研究者自身に突きつけることになった。 バルトリハリ言語哲学の原像を探る試みとして、同哲学の影響下に仏教が要請する言語理論を「アポーハ論」という形で具体化したディグナーガを視野に入れたことは、予想以上に有意義であった。
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Strategy for Future Research Activity |
イ・ジェヒョン(バルトリハリ時間論、広島大学大学院)、川村悠人(インド詩論・文法学、学振PD)、友成有紀(ニヤーヤ学派言語論、学振PD)、石村克(インド真理論、広島大学大学院)、尾園絢一(ヴェーダ学、東北大学大学院文学研究科助教)を主たる研究協力者として、2013年度は研究会(「マハーバーシャ研究会」)を開催したが、本年2014年度も彼等との研究会が本研究に極めて有効に機能していることが実証された。2015年度も彼等との研究会を本研究推進の母体として行く。上記研究会は、バルトリハリの言語哲学の基盤であるパタンジャリ(紀元前2世紀)の『マハーバーシャ』に展開される諸トッピックを共同で検討することを目的としており、若手研究者へのインド文法学研究の継承という教育的側面を併せ持つ。 2015年度の研究課題として、『ヴァーキャパディーヤ』第1巻第14詩節、第144詩節、第2巻第152詩節に提示される「形而上学的直観」研究の深化が残されている。バルトリハリは、「形而上学的直観」を、所与の世界を意味世界として展開する根源をなすものと考えていることが予想される。本研究の最終年に当たり、バルトリハリの核心的文論の本質的な原像の解明を試みる。 本年2015年度は、国際サンスクリット学会の開催年である。上記研究協力者共々、同学会において研究発表をする予定である。国際的に見て、インド思想における言語哲学研究分野の研究推進において我々が先端を担っていると自負している。本研究の成果の一部を国際舞台で公表することにより、世界の上記研究分野の諸研究者にインパクトを与えたい。
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Causes of Carryover |
2014年度は研究会を1回開催したが、研究分担者として参画している「インド哲学諸派における〈存在〉をめぐる議論の解明」(科研A(一般))との有機的な連携により、研究会開催費用(旅費他)が合理的に使用できたため、次年度使用研究費が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度の研究計画として、タイのバンコクで開催される「第16回国際サンスクリット学会」(6月28日~7月2日)への参加が予定されている。可能な限りの人数の研究協力者が同国際学会で研究発表を行なうことができるよう、上記の次年度使用研究費(海外旅費)を使用するものとする。
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Research Products
(7 results)