2013 Fiscal Year Research-status Report
南島におけるキリスト教ネットワークの形成とその展開に関する交流史的研究
Project/Area Number |
24520073
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Research Institution | Koshien University |
Principal Investigator |
一色 哲 甲子園大学, 人文学部, 准教授 (70299056)
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Keywords | 〈中核─半周縁─周縁〉 / 東アジアキリスト教交流史 / 「民衆キリスト教の弧」 / 南島キリスト教交流史の史的システム / 喜界島 / 貫流、循環、越流 / 志喜屋孝信 / 川平朝申 |
Research Abstract |
本年度初頭に奄美群島の喜界島でフィールドワークを行った。この調査により、同島における2教派によるプロテスタント伝道にともなう教会形成と相互交流を解明する2つの重要な史料を入手した。これらの一次史料により、喜界島でのプロテスタント伝道は本土からの伝道者の応援だけではなく、旧植民地の台湾や朝鮮半島での生活体験のあり信徒や伝道者が教会を形成していく原動力になっていったことが判明した。 このように、戦前において、旧植民地とのキリスト教信仰の交流により教会が形成されていく喜界島のあり方は、沖縄の石垣島との類似性が見られる。沖縄島を中心・中核とする南島の周縁・辺境部の共通性に着目し、キリスト教交流史の視点から戦前の南島伝道を以下のように構造化した。(1)中心・中核としての沖縄島、(2)半周縁としての徳之島(奄美群島)と宮古島、(3)辺境・周縁としての喜界島・石垣島、そして、(4)それらの3要素が混在した奄美大島。そして、その南島とその外縁部とのキリスト教の交流の実態を以下の3つに図式化した。(1)貫流:日本本土から南島地域を貫流して台湾にいたる流れ。(2)循環:旧植民地、南洋群島、中国の一部を循環する流れ。(3)越流:ハワイや米国本土に越境していく流れ。本年度は、この「南島キリスト教交流史の史的システム」の理論化に努めた。 また、近代以降の南島の貧困や差別、抑圧の歴史的経験がその地域で共通のキリスト教信仰を形成していったのではないかという仮説をたてた。その信仰は、本土の主流の神学とは明らかに違い、「民衆」が難儀や苦闘からの救済を切に願った福音主義的な傾向をもつ信仰で、「民衆キリスト教」(池上良正)とも呼べるものであった。そして、その信仰が奄美から沖縄、先島、台湾に歴史的に形成されたという実態をふまえて、本年度は、南島から台湾にかけて「民衆キリスト教の弧」が形成されたという着想を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度、現地調査は(1)喜界島(2013.4.26-29)と(2)沖縄島(2014.3.4-11)の2回であった。しかし、喜界島では、南島キリスト教研究でこれまで発見されていなかった史料を入手することができた。この史料により、南島の周縁部分(喜界島・石垣島)では、日本帝国の旧植民地でキリスト教の洗礼を受けた信徒やそれらの地域で伝道活動を経験してきた伝道者が、教会の形成にたずさわり、その発展に寄与してきた事実をつかむことができた。そのことにより、南島キリスト教交流史における史的システムの構築という仮説を立てることができた。 また、この仮説を学会発表で行うことで、南島地域における歴史や他地域の研究者から有益な情報提供や助言を得ることができた。また、本研究がきっかけで、昨年結成された「東アジアキリスト教交流史研究会」では、台湾や朝鮮半島、中国大陸をフィールドとするキリスト教史研究者との交流がはじまっている。それに加えて、「宗教と社会」学会の内部で発足した「東アジアのキリスト教における越境と交流」プロジェクトでも同様の研究上の交流が行われている。 このように、他地域や他宗教との研究会により、本研究の視座や視野は、順調に広がっている。また、それにともなって、本年度以降につながる新しい研究課題や問題提起も得られた。 上記のような理由から、本研究は、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のような実績をふまえて、来年度は5年間の研究期間の中間点にあたるため、まず、中間的な総括をしようと考えている。また、研究機関が変わったことにより、東京に研究上の拠点が移った。そのことにより、次年度は、近代以降南島に伝道したキリスト教の主要教派、日本基督教会、日本メソヂスト教会、ホーリネス、聖公会、バプテスト、カトリックの南島伝道戦略について、各教団・教派の中央の意図を明確にしたいと考えいている。このことにより、本土の教団・教派の意図と実際に南島伝道で人びとに求められたキリスト教信仰のギャップが判明することが期待される。 また、南島地域で生活する「民衆」のキリスト教に対する期待や違和感等の印章を探っていきたいと考えている。具体的方法としては、まず、『琉球新報』等、南島地域で発行されている新聞を網羅的に調査し、そこからキリスト教にたいする記事等を抜き出し、データベースを構築する。また、沖縄や奄美、東京や鹿児島に残っている文献から「民衆」のキリスト教認識を析出したいと考えている。 これらの調査は、本研究の中間的な総括にあたると同時に、後半期の研究に繋がる課題の設定でもある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度に行う予定であった南島の全教会に対するアンケート調査については、本年度についても研究の進行上見送った。そのため、初年度とほぼ同額の未使用額が生じた。 なお、この調査を延期した理由は以下の通りである。この南島の全教会へのアンケート調査については、全教会に共通する一律の質問とそれぞれの地域や島の教会ごとの質問をする必要がある。そのため、「南島キリスト教交流史の史的システム」の構造についての仮説を建てる必要があり、本年度もそれを見送った。 来年度は、本研究の中間的な総括を行う予定である。そのため、本年度の研究成果をふまえた上で、本年度の早い段階で、南島全教会のアンケート調査を行いたい。
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Research Products
(9 results)