2012 Fiscal Year Research-status Report
17世紀前半における知の基軸としての光学ーデカルトとその論争者を通してー
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24520093
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
武田 裕紀 追手門学院大学, 基盤教育機構, 准教授 (50351721)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 光学 / デカルト / モラン / フェルマ |
Research Abstract |
(1)デカルト書簡集翻訳の注釈を施した。底本となっているAdam et Milhaud版第二巻の翻訳作業に引き続いて、注釈作業を行った。Correspondances de P. Marin Mersenne、Oeuvres completes de Descartes (2009 - )、Tutte le lettere 1619-1650(2006)など、さまざまなエディションから注釈を抜粋するだけでなく、独自の調査によって明らかになった事実を付け加えることができた。当書簡集第二巻には、フェルマとの論争、モランとの論争など、光学に関連する主題が多く含まれている。この成果は、日本学術振興会の研究成果公開促進費の助成を受けることになり、今年度中に知泉書館から出版されることが決まっている。 (2)デカルトの『屈折光学』の論証構造を、定義と論証の問題、仮説演繹的方法の問題、comparaison(imitatio)という比較類推による論証の問題、の三点に焦点を絞って検討した。そしてそれぞれの論点を、アリストテレス主義者であるモランとの論争の中に見いだし、デカルト的な革新の意義を、伝統的なスコラ学との対比において明らかにした。さらにデカルト以降の自然学の展開も視野に入れ、このデカルト的革新が後生に与えた影響や、ニュートンらによって克服されていく歴史的過程をも、テキストに即して明らかにした。その研究成果は、金森修編『合理主義の考古学』(東京大学出版会)にまとめられた。 (3)フェルマとの光学論争は、メルセンヌやエティエンヌ・パスカルなどパリの学者たちにも伝えられ、彼らのデカルト観を形成するのに一役買った。パスカルの没後350年を記念するコロックでは、こうした学者サークルの社会史・文化史的観点から研究成果を報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題の一つめとして、デカルト書簡集翻訳の注釈:より完璧な注釈をつけるために、さまざまなエディションの注釈を調査し、その取捨選択を行い、これらに加えて、申請者独自の調査結果をできるかぎり反映させる、と記した。これについては、順調に完了し、予想以上の成果を上げることができた。 第二に、デカルトの『屈折光学』の論証構造を、16世紀のフランス人人文主義者ペトルス・ラムス(1515-72)によるレトリック(ディアレクティック)教育プログラム改革に関連づける、と記した。これについては、デカルトのテキストの中に、ラムス主義と結びつけることが可能と思われる記述を見いだしてはいるが、同時に、これを必ずしもラムス主義と結びつける必要のないとの見方も提示した。その意味では、「研究目的」の段階での予想が、十分に検証されえなかったともいえるが、しかし、この研究によって、デカルトの論証体系に新しい光を当てることには成功したと考えている。 第三に、ジャン・バティスト・モランの光論についての個別研究がある。モランの光学・天文学の主著であるAstrogia Gallicaをも参照しつつ、独立したモラン研究とする予定であったが、実際はこの著作をすべて検討することはできず、数章を検討するにとどまった。翌年度以降の課題として残したい。 第四に、予期していない成果として、光学研究を通して、パリの学者サークルとデカルトの人間関係を垣間見ることができた。さらにこの成果を、パスカル没後350年記念コロックで発表し、多くのパスカル研究者に披露することができた。 以上4つの成果は、第三点を除いて順調に、あるいは予想以上に順調に進展しており、全体としては、おおむね順調に進展していると自己評価できよう。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)ホッブズの光論。17世紀の光学の問題は、近代初期における知の変革の深奥にまで刻み込まれているため、狭義の意味での光学プロパーに収まることを許さず、数学、自然学、生理学、形而上学といった学問全体にまで及んでいるが、その仕方は単一ではない。申請者は本研究において、デカルトにおける知の基軸としての光学を明らかにすることを主要課題としているが、デカルト以外の哲学者においては、デカルトとは違った仕方で、光学が知の基軸として機能しうる。その際、注目すべきはホッブズである。唯物論者ホッブズにおいて、物質概念と光の概念は独特な関係を取り結んでおり、この問題は、デカルトとの書簡においてもきわめて難解な個所となっている。この研究テーマは非常に重要で先駆的あると考えるが、それゆえに困難も多く、申請書の段階では、デカルトとホッブズの往復書簡を分析して論点を析出するにとどめたい、と考えていた。ところがこの間、ホッブズの『物体論』の全訳が出版され、このラテン語の著作に対するアプローチが飛躍的に容易になった。できるかぎりこうした状況を生かしていきたい。 (2)デカルトの書簡集翻訳は、第三巻がまだ残っており、ここにもモランとの論争が収録されている。さらにメルセンヌ宛て書簡にも、光学に関する重要な発言が散見され、これについての注釈も引き続き行う予定である。 (3)これに関連して、メルセンヌの光学研究をおこなう。メルセンヌは決して独創的な思想家ではないし、体系的な思想の持ち主でもないがそれだけに、当時の学問的状況の反映とも見ることができる。したがってメルセンヌを研究することは、17世紀前半の学問的状況を、ある特定の教義の相のもとに見るのではなく、非党派的な観点で眺めるための視座と、翻って、デカルトやホッブズなどの個性的な思想家の主張の意義を測定するための参照軸としたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)とりわけメルセンヌ研究については、日本国内では適当な知識提供者がいないので、フランスのDescotes氏(Verite des sciencesの校訂者)や、イタリアのPaganini氏に面会し、助言を受ける予定である。この機会を利用し、資料調査、海外学会参加などを行う。(→海外旅費) (2)デカルト書簡集翻訳うち合わせ会議、科学史・哲学関係の研究会での発表・出席(1回につき5万円) (3)フランス語論文執筆のための謝金(1件につき3万円) (4)関連図書の購入(20万円程度)
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Research Products
(4 results)