2015 Fiscal Year Research-status Report
19世紀セーヴル国立磁器製作所における技術開発と東洋陶磁
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24520105
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
今井 祐子 福井大学, 教育地域科学部, 准教授 (00377467)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 美術史 / 陶磁史 / フランス文化史 / ジャポニスム / 日仏文化交流史 / 国際情報交換(フランス) |
Outline of Annual Research Achievements |
1、平成27年度は、前年度までの調査で入手した文献資料を読み込み、得られた以下の新知見を論文(全101頁)にまとめた。 (1)19世紀フランスは、芸術と産業の双方の領域において製陶技術の高さで他国を先導した。こうした状況下、フランスの民窯は積極的に機械を導入し、産業振興の波に乗じて製作の効率化に努めた。これに対して官窯であるセーヴル製作所は、機械の導入に慎重な姿勢をとり、化学者の研究成果や職人と芸術家の優れた手仕事を活かして、新しい技術と斬新な表現を駆使した芸術性の高い作品を時間をかけて製作した。こうした時代錯誤とも言えるセーヴルの姿勢は批判を呼び、19世紀に同製作所は組織改革と作品の改良を要求されていた。 (2)しかし、19世紀フランスの民窯と官窯はともに、複数の東洋陶磁(主に中国・日本・ペルシア)から着想を得て折衷的な東洋趣味の造形表現を試み、この過程を経て独自の装飾表現を生みだしている。つまり、両者には理想とする表現において共通する特徴があった。装飾技法においては、文様を縁取り肉厚に塗布する上絵付、泥漿(液状の陶土)で描いた文様装飾、器面を文様で充填する濃厚な装飾、器面を画布に見立てて描いた絵画的装飾、器面全体を覆う鮮明な色の高火度釉(銅紅釉・結晶釉・艶消し釉)と釉下彩などの特徴がある。また、これらの装飾を可能にするべく、高火度焼成に耐える新硬質磁器の開発や炻器の活用がなされた。これらは19世紀フランス陶芸全般を特徴づける技術である。 (3)19世紀後半はジャポニスム(日本趣味)の時代だが、この頃のセーヴルの作品には「紛うかたなき日本風の陶磁」と呼べるものは少なく、複数の東洋からの影響を合わせ持った作品が多い。セーヴル製作所の技術開発は1900年パリ万博における成功を導き、この成功は複数の東洋から学んだ陶磁特有の表現とフランス近代化学が融合することによって得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
IS関連のテロに起因する用務先(フランス)の治安悪化のため、年度内に予定されていた海外調査を中止したため、当初予定していた万博出品作品の詳細に関する確認作業が実現しなかった。しかし、セーヴル陶磁美術館学芸員の協力を得て、電子メールにより部分的な情報提供を受けることができ、本研究の結論に結びつく考察は一貫性のある形で進めることができている。また、本年度には本研究の中心的な課題である装飾技法に関する研究成果を論文(全101頁)にまとめて発表した。したがって、本研究の進捗状況は総体的には「やや遅れている」と判断されるものの、用務先の治安が改善すれば実施できる調査に向けての準備はほぼ整っている。
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Strategy for Future Research Activity |
1、得られた成果を論文・著書等で公表するとともに、海外調査の機会を伺いつつ、今後の関連研究に資すると思われるフランス人研究者の著作の翻訳書を公表することを検討している。尚、海外調査を行う場合の指針は以下の通り。 (1)壺に重点をおいた作品調査 (2)1850‐80年代にパット=シュール=パット技法を用いて製作された作品の素地の色と泥漿装飾の色に関する調査 (3)1890年代以降に高火度釉(銅紅釉・結晶釉・艶消し釉)と炻器を用いて製作された作品に関する調査 2、本研究に従事する期間は予定では次年度が最終年度にあたるが、用務先の治安状況によっては、補助事業期間延長を申請することを検討している。
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Causes of Carryover |
予定していた海外調査を実施しなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に実施する海外調査の旅費、論文の欧文校閲・印刷費、刊行著書に使用する図版使用料に組み込む。
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