2013 Fiscal Year Research-status Report
住吉派の事例にみる古典受容の在り方の解明-画像のパターン分析を中心に-
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24520112
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
下原 美保 鹿児島大学, 教育学部, 教授 (20284862)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江村 知子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, その他部局等, 研究員 (20350382)
高岸 輝 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (80416263)
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Keywords | 住吉派 / 古典編集 / 画像分析 / 琳派 / 近世やまと絵 / 中世やまと絵 / 国際情報交換(アメリカ・ドイツ) |
Research Abstract |
【研究報告会】 2013年11月2日に東京文化財研究所において研究報告会を行った。参加者は研究代表者の下原と分担者の江村、研究補助の長友季巳(鹿児島大学理工学研究科2年)の3名であった。江村より「宗達・光琳の古典主題について」発表があり、長友からは「画像分析の現状報告」が行われた。最後に来年度開催予定のシンポジウムの企画案が下原より出されテーマやパネリストについて話し合いを行った。2014年3月9日には鹿児島大学教育学部において本年度の研究報告会を行った。参加者は研究代表者の下原と分担者の髙岸、江村、研究協力者の佐藤、研究補助の長友、本学工学部3年で佐藤ゼミの森元啓志の6名であった。最初、長友より「絵巻における建築物の描画に関する研究」(修士論文)の発表が行われ、平成24・25年度の画像分析における研究成果を確認した。続いて江村より「琳派における古典主題の表現について」、髙岸より「室町時代の日記に見る絵巻の鑑賞・制作・収集」について、下原より「住吉派の出自について-具慶筆〔宇治拾遺物語絵巻〕を中心に-」について発表がなされた。最後に来年度のシンポジウムについての検討が行われた。 【研究代表者・分担者等の活動状況】 研究報告会(2013年11月・2014年3月)は下原が主催した。国内の調査活動は、下原と髙岸が5月10日に筥崎宮にて住吉具慶筆「箱崎八幡宮縁起」を、江村が9月17日に石川県立美術館にて琳派作品及び関連資料を、11月27日に京都市立芸術大学資料館にて土佐派作品及び関連資料の調査を行った。海外の調査活動は、下原が6月26日~7月24日まで、フランス及びドイツの美術館、博物館にて近世やまと絵に関する作品調査(於リンデン博物館)及び関連資料の収集を行った。また、髙岸と長友は10月22日に東京大学文学部髙岸研究室にて、絵巻における画像分析の改善点や今後の方向性について話し合った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度検討した画像分析の手法であるハフ変換―直角座標軸の点p(x,y)を通る全ての直線が、その直線と直角に交わる垂線軸(x)との角度(θ)と、原点からの距離(ρ)で表されるため、x,yをθとρの組み合わせに変換すること-を用いて、制作年代(1309年)と筆者(高階隆兼工房)が明かな「春日権現験記絵巻」の画像分析を行った。その結果、1~8巻までは建築物の傾斜角が近似しており、9巻以降は角度にばらつきがあることが明らかになった。また、同一工房で制作された「玄奘三蔵絵」においても1・2巻は傾斜角が近似しており、3巻以降は角度にばらつきがあることがわかった。このような結果に対し、「春日権現験記絵巻」では8巻までが、「玄奘三蔵絵」では2巻までが、絵所預による厳密な統制のもとで制作されたのではないかとの推測がなされた。さらに、江戸時代初期に制作された住吉具慶筆「元三大師縁起絵巻」と同筆者による「慈眼大師縁起絵巻」の分析も行った。両絵巻とも各巻に傾斜角のばらつきが見られ、また、同一筆者でありながら、作品ごとの傾斜角の平均値にも大きな差が見られた。これらの絵巻は近世初期の古典文化復興期に手掛けられたため、先行するいくつかの古典絵巻から画像を引用し、編集した結果ではないかと推測された。 従来、絵画における建築物の傾斜角に注目した研究は数多くなされてきたが、これらの多くは人の手によるトレースをもとに行われていた。本研究では画像をスキャンしたり、撮影で得られたデジタル画像を用いてハフ変換を行い、傾斜角を導き出すという科学的手法によって結果を導いた。以上の研究経緯と結果については研究補助である長友希巳が修士論文「絵巻における建築物の描画に関する研究」にまとめ、鹿児島大学理工学部研究科に提出している。 以上のことより、本研究は概ね順調であるといえよう。
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Strategy for Future Research Activity |
【画像分析】これまで遂行してきた画像分析の手法を、住吉派の作品と古典作品に適用し、同派の古典編集の有り様を明らかにしたい。具体的には本年度調査した住吉具慶筆「箱崎八幡宮縁起」(筥崎宮)や、来年度調査予定の住吉如慶筆「紀州東照宮縁起絵巻」(紀州東照宮)、同筆「きりぎりす絵巻」(細見美術館蔵)、住吉如慶の模写が確認できる「融通念仏縁起絵巻」(清凉寺)などの中世絵巻の画像分析を行う予定である。さらに、人の手による採寸に頼らない科学的手法を用い、画面に対する視点のクローズアップも算出することで、画像分析の幅を広げていきたい。 【作品調査】国内では、住吉如慶筆「紀州東照宮縁起絵巻」(紀州東照宮)や「きりぎりす絵巻」(細見美術館蔵)等を、海外ではNYパブリックライブラリー・スペンサーコレクションの住吉具慶筆「中殿御会図」等を調査し、米国における同派作品に関する情報収集を行う予定である。 【研究会・シンポジウム】2015年3月に、住吉派における古典編集の在り方を、美術史研究における見解と科学的手法を用いた画像分析から論じるシンポジウムを開催したい。どのような観点から論を進め、どのような分野のパネリストを招聘するかについては、事前に数回打ち合わせを行う予定である。
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Research Products
(7 results)