2013 Fiscal Year Research-status Report
楽曲構造における確率系の構造方程式モデリングとパス解析による視覚化の研究
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24520150
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
小野 貴史 信州大学, 教育学部, 准教授 (10362089)
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Keywords | 音楽学 / 音楽美学 / 楽理分析 / アヴァンギャルド理論 / ストレンジ・アトラクタ / 多重共線性 |
Research Abstract |
H25年度は楽曲分析に数理解析理論を援用すべく多面的な角度から研究し、また、音楽美学における語用定義を再考する期間となった。 まず、数理側面では音楽作品の構造及び解釈(リアライズ)側面双方に内包される多重共線性(Multi-collinearity)と、ストレンジ・アトラクタ(Strange attractor)の性質に着目し、それらの数理構造を用いて実作として“Strange attractor”for Violin and Piano(東京にて初演、大船渡にて再演)及び“Zero tolerance for Multi-collinearity” for 2 Electric Guitars and Drums(松代にて初演)を制作・発表した。さらにL.V.ベートーヴェンの『大フーガ』op.133及びテリー・ライリーの“In C”を楽理分析し、各主題の分布頻度を分散させ、編曲によって楽曲を再構築することよって音色とフレーズ構造の論理的統合を実践した。これらの編曲作品も東京にて発表する機会を得た。 続いて学術口頭発表では音楽ジャンルを分断するように位置し、区分が未だ曖昧である「前衛音楽」(avant-garde music)と「実験音楽」(experimental music)の差異に着目し、音楽音響研究会2013年度研究大会において『音楽における“前衛”の存在論-高柳昌行のスタンスから-』という題目で発表した。なお、この発表に基づく学術論文はH26年度に発表する予定である。この音楽における“前衛”の語用はすでに1962年にレナート・ポッジョーリによって「≪前衛≫という標語に含まれる概念の妥当な解釈は,美学概論にも美術史概説にもほとんど見当たらない」(ポッジョーリ:1988,p.35)と批判されているが,その後も明確な指針がないままに混同して使われ続けてきた経緯がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
音楽美学的考察と実作は順調に進捗したが、楽理分析において構造方程式モデリングの障壁となりうる多重共線性とストレンジ・アトラクタが数多く検出され、分析に用いる楽曲の数値データ化を再構築する必要性が生じた。これは音価、音高、音強、音色等のパラメーターに加えて音密度や分布度合を共通の水準を持つよう数的置換することでクリアできることが判明した。 実作として“Strange attractor”for Violin and Piano(東京にて初演、大船渡にて再演)、“Zero tolerance for Multi-collinearity” for 2 Electric Guitars and Drums(松代現代美術フェスティヴァル招待作品)等を発表する成果を得た。 他方、音楽美学研究では前年度の音楽における虚構性の定義に続き、本年度はアヴァンギャルド理論に焦点を当てて一定の成果と結論を得ることができた。本テーマの研究は音楽音響芸術研究会2013年度研究大会にて「音楽における“前衛”の存在論-高柳昌行のスタンスから-」という題目で口頭発表された。
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Strategy for Future Research Activity |
音楽芸術の内包する現実世界とは異なる可能世界における時間性の分析が急務であり、音楽美学や諸芸術理論における時間論を参照しながら構造方程式モデリングにおける時系列解析を実施する予定である。さらにH25年度に直面した音価、音高、音強、音色等のパラメーターに加えて音密度や分布度合を共通の水準を持つよう数的置換する方法論を早急に確立し、構造方程式モデリングに含まれる時系列解析も含めて最終的に楽理構造をパス図によって可視化する予定である。
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Research Products
(9 results)