2013 Fiscal Year Research-status Report
作曲家・今史朗の音楽創作史研究――忘れられた作曲家の再評価への試み――
Project/Area Number |
24520161
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中村 滋延 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 教授 (90164300)
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Keywords | 音楽学 / デジタル・アーカイブ |
Research Abstract |
本研究の目的は、福岡を中心に活躍した作曲家の今史朗(コン・シロウ、1904-1977)について、①その創作活動の検証、②作品の分析、③創作資料のデジタルアーカイブ化、④それらの資料を音楽文化財として活用する環境の構築、である。平成25年度の研究は②と③が中心になり、部分的に④に関係する活動も行った。 「②作品の分析」に関しては、今史朗がその作品に導入した「音叢」という作曲技法上の概念を作品分析を通して明らかにし、また彼の電子音楽の作曲技法上の特徴の一端も作品分析を通して示した。音叢は弦楽合奏の作品に主に用いられた概念で、同時代の「クラスター」の概念の相似であるが、音響に鉱物的なイメージよりも植物的なイメージを賦与したいという思いがそのネーミングに込められている。電子音楽に関してはその音素材に電子音や具体音のみならず、楽器音や声楽音が比較的多用されているところと、音高の配置に音列技法的な扱いが散見できるところとに、その特徴が見られた。 「③創作資料のデジタルアーカイブ化」に関しては入手済のアナログのオープンリールテープに録音された彼の作品音源の大部分をデジタル化、加えてそのデジタル化の際に雑音除去などの修正をほどこした。このデジタルアーカイブ化によって今史朗の電子音楽上演のための素材が確保できた。 「④資料の音楽文化財としての活用」に関しては、作品分析を踏まえることで今史朗作品を公開演奏会の上演作品候補として推薦することができた。 上記の②から④の研究は相互に関連し、「①創作活動の検証」の細部を円環的に構成する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では平成24年度に作成した作品リストの中の作曲年が確定されている作品すべてを作曲技法の観点から分析を実施する予定であったが、予想以上に分析作業に手間がかかり、数的には当初予定の半分にも満たなかった。しかし分析作業の格闘の中で、新たな分析手法(12音圏図によって音高構造を相互に比較し、音楽の推移の跡をたどる方法)を発見したので、今後はその遅れを取り戻すことが出来ると思う。 デジタルアーカイブ化は音源に関しては非常に順調に進んだが、楽譜のPDF化に関しては数的には当初予定より後退している。それは単に自筆楽譜そのままのPDF化よりも、楽譜浄書ソフトによるPDF化を一部の作品について優先させたがために作業に時間を要したからである。 創作活動自体の検証として多くの関係者へのインタビューを実施する予定であったが、有効にインタビューを行うための準備研究に時間を要したために、限られた数にとどまった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度はこれまでの研究の不足部分を埋めるための研究活動として、「②作品の分析」と「③創作資料のデジタルアーカイブ化」をさらに徹底して行う。同時に「①その創作活動の検証」に関して関係者へのインタビューを実施し、当時の新聞雑誌資料と放送局での制作記録を調査する。それらの成果をもとに今史朗の音楽に関するシンポジウムを実施する。それを受けて「今史朗の音楽」(仮題)という冊子を作成する。その冊子においては研究成果とシンポジウムの内容以外に、「④それらの資料を音楽文化財として活用する環境の構築」に関する提言についても記載する。 その後、今史朗の評伝「今史朗、人と音楽」(仮題)を執筆し、出版助成を得てそれを公刊する予定である。
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Research Products
(7 results)