2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520164
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
梅林 郁子 鹿児島大学, 教育学部, 准教授 (10406324)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | フーゴー・ヴォルフ / 音楽批評 / ドイツ・リート |
Research Abstract |
本研究は、フーゴー・ヴォルフ Hugo Wolf(1860-1903)が1884年から1887年にかけて執筆した音楽批評文を検討し、音楽に対する彼の評価基準を明らかにするものである。 今年度は1884年と1885年の批評文を中心として、国際フーゴー・ヴォルフ協会によるHugo Wolfs Kritiken im Salonnblatt(2002、Musikwissenschaftlicher Verlag)をはじめ全3種類の既出版資料と、ウィーン市庁舎図書館に所蔵されている自筆資料の一部との比較検討をした上で、音楽について彼の評価を反映している記述を人物や項目別に抽出し、分類・考察した。作業を進めるなかで、1887年までを一括で見通す方が良いと判断した項目等については、次年度以降に予定していた1887年までの批評文考察を、該当箇所のみ前倒しで実施した。音楽批評文執筆を終えた1888年以降、特にヴォルフはリート中心の作曲活動を行うこととなるため、本概要では今年度の研究成果の具体例として、以下、リートに対する彼の考え方についての考察結果を述べる。 ヴォルフのリートに関する批評文は、1885年から1887年まで年を追うごとに数が増しており、リートへの関心の高まりを窺い知ることができる。これらの批評文を整理すると、(1)リート作品について(広く、音と言葉の関連を含む)、(2)歌手によるリートの表現法、に内容を分類できる。さらにこの記述の分析により、彼は、a. 成果の高い音楽的展開をもたらすには、作曲に値する詩的に良質な素材を用いる、b. 詩を音楽的に表現するにあたって、特に旋律がリートの魅力を左右する重要な鍵を握る、c. 演奏者は、詩や作曲者の音楽的表現に対して鋭敏に反応し、詩と音楽の持つ効果を最大限に引き出す、の三点を、リート作曲や演奏の重要事項と考えたと指摘できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、本研究の目的を達成するために、ヴォルフの音楽批評文のうち、1884年(全33篇)と1885年(全35篇)を対象として、(1)ウィーン市庁舎図書館での資料調査、及び出版資料との比較、(2)批評文の内容に関する分類と考察、の2つの計画を実施した。 まず(1)では、2012年11月11日~24日にウィーンに滞在し、図書館にて該当資料の収集と調査を行った。これは、批評文の自筆稿と掲載紙『ウィーン・サロン新聞』について収集と調査を行うものであり、自筆稿については1886年分の一部まで、順調に作業を進めることができた。一方『ウィーン・サロン新聞』は、現物ではなくマイクロ・フィルムで保管されているが、本研究に対応できるフィルム・リーダーが、図書館に一台しかないことが、昨秋の調査の過程でわかった。このリーダーは予約ができず、また、利用希望者も大変多いため、短期滞在で、2年間分の『ウィーン・サロン新聞』の調査を終えることは、不可能であった。平成25年度にも調査の続きを予定しているが、図書館の設備状況が改善されない場合、この部分については、変更を余儀なくされる可能性が高い。しかし、資料調査は批評文の内容研究をするための準備段階であることから、仮にマイクロ・フィルムの調査を研究に含めることが不可能であっても、自筆稿と出版資料との比較で、考察の基礎となる資料を形作ることができると考えている。 (2)については、ヴォルフの音楽に対する評価を反映している記述を人物や項目別に抽出し、分類・分析することで、批評文の内容考察のデータを蓄積し続けている。また「研究実績の概要」で述べたように、一部必要な項目では、1886年以降の批評文についても抽出や考察を行っており、研究を順調に進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は引き続き、ヴォルフの音楽批評文のうち1886年(全29篇)と1887年(全16篇)を対象に、(1)ウィーン市庁舎図書館での資料調査、及び出版資料との比較、(2)批評文の内容に関する分類と考察、の2つの研究計画を実施予定である。(1)では、昨年に引き続き、ウィーンでの資料調査を夏期に約2週間で計画している。1886年と1887年の資料に関しては、1884年や1885年の状況とは異なり、扱う資料の総数は減じているが、大半の自筆稿が図書館に残されている。そのため、平成24年度の調査・研究を踏まえ、さらに綿密な比較検証をしたい。尚、「現在までの達成度」の項目で述べたように、短期間での図書館における調査を基に資料を整える予定の本研究では、ウィーン図書館の設備との関連で『ウィーン・サロン新聞』のマイクロ・フィルム資料を研究対象に含められない可能性がある。しかしその場合は、自筆稿と出版資料の比較で、(2)の分類や内容考察を行うにあたっての基礎資料を作る予定であり、全体としては大きな研究計画の変更にはならない。その上で(2)では、平成24年度の研究方法や成果を生かしながら、引き続き、音楽に関するヴォルフの考え方を反映している記述を抽出し、項目・人物等の別に分類・考察を続けることで、翌年度に向けて情報の整理・蓄積を続ける。 そして平成26年度は、平成24・25年度までに終える(予定の)資料の比較検討を基に、項目や人物別に記述をまとめ、出現回数等から重要度を示すとともに、ヴォルフの音楽に対する関心や考え方の変遷についても考察する。その上で、音楽批評文執筆当時の彼が、音楽において重要視した事項に基づいて、音楽評価基準のモデル化を図る。このモデルは、今後、ヴォルフが残した書簡等、他の文書資料の内容研究にも有意に活用できるものとしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、研究の推進、並びに研究結果発表のため、研究費使用について、以下を計画している。 まず、今年度も資料調査のためウィーン市庁舎図書館、並びに国内の図書館に出張予定である。ウィーンでの調査については、平成24年度は学内の他の職務との関連から11月中旬となったが、調査後の資料整理期間を考えると、もう少し早い方が望ましく、平成25年度は、図書館の夏休み終了後の8月末から9月上旬を予定している。期間の長さは約2週間と昨年度と同様で計画をしているが、時期の変更により、交通費や宿泊費に昨年度より若干多い支出が見込まれる。また、国内図書館の調査としては、本研究のために必要な資料を複数有している国内唯一の図書館となる東京大学総合図書館と、RILM等音楽系のデータベースを有している国立音楽大学附属図書館へ出向き、資料の閲覧や確認を行う予定である。東京大学には7月頃まで、国立音楽大学には12月頃までに出張を終えたい。他に今年度は、研究成果の学会発表(発表学会は現在検討中)も予定していることから、この分も含め、全体を外国旅費・国内旅費として計上予定である。 また、平成24年度に引き続き、本研究に必要な関連楽譜(特にヴォルフ全集としてMusikwissenschaftlicher Verlagより出版されている楽譜)、並びに海外博士論文を含む書籍の購入に、設備備品費を充てる。さらに、現在投稿中の論文(平成24年度の本研究の成果発表として)公表後の別刷、今年度の調査を踏まえて必要と考えられるハンドスキャナ等資料の読み取りや確認に必要な機具、その他各種必要な文房具類(記憶媒体やインク・トナー等)を消耗品費として計上する。
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Research Products
(1 results)