2013 Fiscal Year Research-status Report
明治期・大正期・昭和期に国内外で活動した彫師に関する実証的研究
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24520165
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Research Institution | Tsuru University |
Principal Investigator |
山本 芳美 都留文科大学, 文学部, 教授 (50363883)
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Keywords | tattoo / イレズミ / 彫師 / 19世紀の大衆芸術 / 英国王室と貴族 / 船員文化 / 海兵 / 日本人移民 |
Research Abstract |
2013年9月にケンブリッジ大学図書館とパリのBULACとケ・ブランリ美術館にて、資料調査をおこなった。2014年3月には、ロスアンゼルスの日系人博物館と市立中央図書館において資料調査を実施した。 また、19世紀から20世紀初頭の英字新聞を収めたオンラインデータベースAccess Newspaper ArchivesとArchive of Americana、Chronicling America、British Newspapers 1600-1900、The California Digital Newspaper Collection、Ancestry.comなどを検索し、アメリカ、イギリス、香港、フィリピンなど海外において活動した日本人彫師について報じた新聞記事を集めた。19世紀から20世紀初頭に日本を訪れてイレズミをした旅行者が感想を新聞紙にて語った記事も収集した。 結果として、20世紀半ばまでに欧米で出版されたイレズミの歴史についての書籍と新聞記事のなかから、英国で活躍したHoritoyo、Horicho、米国で活躍したMituhashi、Hiroshima、George Yoshino、George Takayma(参考にした新聞記事の記述のまま)、香港のNoma、Yoshida、Okumuraについての記述や記事を集めることができた。、横浜において彫千代の客となったアメリカ人旅行者の記事や、長崎の彫り師について語った海軍士官の記事なども見つけた。この作業を通じて、19世紀後半から20世紀初頭にかけて英国と米国においてイレズミが一度大流行したことも了解できた。今後は欧米における流行の渦のなかで、日本人彫師たちがどのような役割を果たしたのかを調査したいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度において、研究課題のうち19世紀から20世紀初頭に海外にて活動した日本人彫師についての新聞記事を集められたことで、研究を大きく進展させることができた。上記に挙げたデータベースのほか、全体で国内外の35のデータベースを検索したことで、結果的に欧米と日本の彫師たちの状況がクロスチェックできた。19世紀後半から20世紀初頭にかけての欧米のイレズミ流行と日本人彫師の活躍、そして日本国内の違式かい違(いしきかいい、かいは「ごんベンに圭」)条例以降の法律に基づくイレズミ取り締まりの影響を立体的に浮かび上がらせることができた。 研究代表者のこれまでの研究では、イレズミや彫師の取り締まりと日本人彫師たちが海外に出稼ぎ、移民をしていった関係が明確ではなかった。しかし、今回発見した新聞記事では、香港に居住して彫師をしていた男性はアメリカの新聞記者に「禁止令により日本を出た」と語っており、禁止令が彫師の海外流出のきっかけとなったことを明らかにすることができた。 また、今回英字新聞のデータベースで見つけた日本人彫師たちのインタビュー記事のなかでは、英国王室のメンバーや貴族、革命の立役者などが顧客であったことを一様に強調している。これまで、日本在住の彫師が19世紀後半から20世紀初頭にかけて来日した英国王室メンバーや貴族などを施術したことは疑いもなく信じられてきたが、海外の各地において日本人彫師たちもいわゆるヨーロッパ各地の王室や上流階級の顧客を相手にしたことを強調している。彫千代や彫宇之など海外にも知られた有名彫師たちが作り上げた「神話」の見直しをする必要が生じたことは確かだが、今回の作業によって明治、大正、昭和期の彫師たちの実像に迫る手がかりを得たことも確かである。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、欧米のイレズミ史研究においては、ここ10年の新聞データベースの進展により、19世紀後期から20世紀初頭にかけてのイレズミ流行について検討する傾向がでてきている。今後は、こうした研究に着目する複数の研究者と連携をとりながら、引き続き、国内外の資料の収集を計りたい。現段階では、新聞記事が中心であり、彫師がどのような図柄を彫っていたのかは明確ではない。本研究課題は大衆芸術の研究でもあるため、今後は彫師の下絵帳を探すように努め、また、引き続き、日本国内の資料の読み直しや分析のし直しをし、立体的に明治、大正、昭和期の日本人彫師像を描き出すようにしたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度において2度の海外調査をおこなったが、その成果を踏まえて2014年4月末から5月初めにウィーンとパリにおいて、文献研究をおこないたいと考えている。また、大学の夏季休暇中か春季の休暇を利用して、1か月ほど香港とイギリスにて文献調査をおこないたいと考えている。 4月28日から5月8日にかけて、ウィーンとパリにて文献研究をおこなう。また、5月5日にはパリのケ・ブランリ美術館において、私がカタログの一部を書いたTatoueurs, tatoués展の関係者内覧会と懇親会が催される。そこに参加して、研究課題に関連した情報を収集するとともに、人脈を築きたいと考えている。 8月から9月にかけては、今年度の成果を踏まえて、日本人彫師が多く働いたイギリスにて、主にオックスフォード大学のピットリバース博物館の資料とケンブリッジ大学・大英博物館付属図書館の文献資料を集めたいと考えている。その際、香港に関する資料も集まるはずなので、イギリスの帰りに香港経由で帰国の途につき、1週間ほど滞在して香港の公立図書館などで当地で発行された英字新聞や日本語資料を探す予定にしている。
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Research Products
(4 results)