2013 Fiscal Year Research-status Report
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24520199
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Research Institution | Tochigi Prefectural Museum of Fine Arts |
Principal Investigator |
山本 和弘 栃木県立美術館, その他部局等, その他 (30360473)
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Keywords | 厚生芸術 / 熱学 / 教育 / 環境 / ソーシャル・アーティスト / 芸術経済学 / 医療・福祉 / 芸術労働市場 |
Research Abstract |
「厚生芸術」は21世紀の少子高齢化する社会において社会に実益をもたらす芸術の可能性を研究し、「ソーシャル・アーティスト」というまったく新たな概念としての創造的資源を社会に提起し、拡張された芸術概念をとおして還流させることを目的とする。 平成25年度は、前年度に芸術家の労働市場がミクロ経済学的観点からはけっして「例外的経済ではない」ことを明らかにした研究(平成26年度春に『東北芸術工科大学紀要 no.21』)と対極にあるヨーゼフ・ボイスの経済理論が造形化された作品《資本空間1970-77》の研究をともに促進させた。社会の危機を覚醒するアクションと社会を経済的に矯正する討論の両輪を視覚化した作品は、ボイスから私たちにボールが投げかけられた状態であることを明らかにし、「私たちは何をなすべきか」を問う作品が、私たちの次の行動を要請していることを示している。現実に即したミクロ経済学における芸術経済環境をボイス的ユートピアへと向かわせる現実的方向性を抽出した。それでもなお、現地調査から現実のアートワールドは、UAEのシャルジャ、ベニス・ビエンナーレなどにみられるように、ミクロ経済学的金融資本がリードする方向性を確認せざるを得ない状況である。 また、有用性のない芸術という非難に対するひとつのソリューションとして従来の光学偏重の芸術から21世紀的な熱学芸術への拡張の可能性を栃木県立美術館での企画展「マンハッタンの太陽」において社会に広く提起することによって、新聞・雑誌などでの議論を誘発することができた。 さらに、世界でも例をみない画期的アンケート調査となる「アーティストのサバイバル実態調査」の準備をすすめ、平成26年度に実施し、報告をまとめる。このアンケート調査は19世紀以降に芸術が神話化し、科学的な研究のアウトサイダーとして君臨してきた実相を解明し、合理的な創造性再考の契機とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「厚生芸術」=芸術(教育+医療・福祉+環境)という等式に即してみると、本研究の方向性はまさに時代が要請することが明らかになるが、現状は以下のように旧態依然としたものである。 1)芸術×教育:現時点では芸術教育は芸術神話を盲信する従来型であり、芸術神話そのものを脱呪術化する本研究が解明して「厚生芸術」=芸術(教育+医療・福祉+環境)、社会に提言すべき課題が明確化された。脱呪術化の具体的方法として、アーティストのサバイバル実態調査を経済学的手法で行う。この調査は国勢調査を補うだけではなく、神話を形成する構造を統計学によって解明する。 2)芸術×医療・福祉:歴史的にみれば21世紀に需要が多く見込まれるアーティスト・ドクターは非常に少なく、医師は芸術の受容者として富裕層の一角を占めるにすぎない存在にとどまることまでは解明できた。この分裂は科学史の解明研究を援用して原因を究明し、アーティスト・ドクターが多く生まれる素地を探求する必要性がみえてきている。芸術と福祉の密接な関係の研究は世界的にいま目覚ましい進展をみせている。ただし実践的にはアール・ブリュットを従来型芸術制度に組み込む動きとなってしまい、芸術という制度がなぜ部外者を排除してきたかの根本的解明には至っていない。芸術の21世紀的有用性の提起はこの問題の学的方法によって解明されなければならない。 3)芸術×環境:風景画の延長線上にある環境芸術ではなく、不可視光線と熱学による芸術の可能性が本来あるべき芸術と環境の掛け算としての21世紀の環境芸術であることを具体的な展覧会として社会に提起したことは本年度研究の最大の成果となった。展覧会から発展して、熱学アーティストの代表者であるロバート・スミッソンとヨーゼフ・ボイスの接点が改めて明確に浮上。この二人の掛け算が熱学的アーティストが21世の厚生芸術により大きな指針を示すことが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の前半には「アーティストのサバイバル 第一回実態調査」を実施し、年度末までに集計分析を進め、芸術神話の実態と構造の解明を進める。 熱学アートと21世紀型環境芸術の掛け算の具体的方向性を探り、その成果の発表の場としての将来の展覧会「ウェザー・リポート:芸術、環境、宇宙、そして資本」の骨格を形成する。この企画展は栃木県立美術館の英国、ドイツ、日本のコレクションを中心に構成するが、先端的作品を発表し続けるトーマス・ルフの宇宙写真と足利市での政策実績のあるクラウス・ダウフェンのクリーニング芸術、さらにルーマニア出身で英国エディンバラで活動したポール・ニアグの個別研究をも充実させたい。 また、研究最終年度にあたる本年は「厚生芸術」=芸術(教育+医療・福祉+環境)の等式の実現度を先述のアーティストのサバイバル実態アンケート調査から実証的に分析し、「ソーシャル・アーティスト」の具体像(医療アーティスト、教育アーティスト、福祉アーティストなど)の社会提言をまとめる。さらに広義に、従来のアーティスト像とはまったく異なるアーティストとしてのソーシャル・アーティスト、すなわち従来型美術作品ではなく社会そのものの一翼を「制作する」アーティストが芸術系大学において教育される可能性を具体的に提起する。これは芸術神話の解体という本研究の学術的側面と社会有用性をもつアーティスト=ソーシャル・アーティストの育成の可能性の探求の融合であると同時に、少子高齢社会においてこそこれまで芸術の名のもとに隠ぺいされてきた創造性が真に社会的資源となる必要性と必然性を明確化する作業となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度に実施を予定していた「アーティストのサバイバル 第一回実態調査」の実施が今年度(平成 26年度)に持越しとなったため 本年度(平成26年度)に「アーティストのサバイバル 第一回実態調査」の実施費用に充当予定
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Research Products
(10 results)