2012 Fiscal Year Research-status Report
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24520243
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
蔡 毅 南山大学, 外国語学部, 教授 (50263504)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 日本漢文 / 逆輸入 / 唐代文学 / 石上宅嗣 / 『三蔵賛頌』 / 空海 / 福州観察使 / 李長栄 |
Research Abstract |
日本文化の中国へのいわゆる「逆輸入」、特に日本文化の重要な構成要素であった日本漢文の中国への流伝については、今まで学界で殆ど言及されていないため、研究代表者はこの空白を埋めようと考えている。 唐代は日本漢文が中国へ伝わった原点と言える時代である。よって中国における日本漢文の受容を検討しようとすれば、唐代から出発しなければならない。研究代表者は奈良時代末期の石上宅嗣の『三蔵賛頌』、そして空海の遣唐使として福建の地方長官に提出した「為大使與福州観察使書」、「與福州観察使入京啓」等の唐代文人の目にとまった漢文について調べ、「唐人所見日本漢文考」という論文にまとめて2012年8月に中国新疆師範大学で開催された「唐代文学学会第16回国際学術研討会」で発表した。そこで出された研究関係者の意見を踏まえて修正した後、学術誌に投稿する予定である。なお、このテーマに関連する課題である「李長栄『海東唱酬集』再考」という論文を、2012年9月に中国社会科学院と安徽大学が共催する「清代文学国際学術研討会」で発表した。また、以前の論文を改訂した「日本填詞西伝考」は『国際中国文学研究叢刊』第2集(上海古籍出版社)に掲載された。 ほかに、江戸文人斎藤正謙の『拙堂文話』の中国への流布についても検討し始め、2013年10月に中国西華師範大学で開催される「東方詩話学会第8回国際学術研討会」で発表する予定である。 上記の一連の成果は、研究代表者が目指している『中国における日本漢文学の受容』という著書の一部となるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(理由)「中国における日本漢文の受容」というテーマは今まで学界ではほとんど認識されておらず、斬新とも言える研究分野であるので、研究代表者の発表した論文は開拓的な意義があると自負している。平成24年度は研究計画通りに「唐代における日本漢文の受容」に関する学会発表をおこなった。また、『拙堂文話』の中国への流布についての検討にも着手したことを考えると、「おおむね順調に進展している」と言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題の研究対象として、入唐僧圓仁の『入唐求法巡礼行記』、入宋僧成尋の『参天台五臺山記』、江戸時代斎藤正謙の『拙堂文話』、賴山陽の『日本外史』等有名な著書のみならず、多くの文献に散見する漢文で書かれた官製文書、私用書簡等も視野に入れて、様々なルートを通して中国に伝わった日本漢文を網羅的に集める予定である。その上で、日本漢文の中国への流伝の全容を解明しようと考えている。今後は時代ごとに検討を加えた上で、すでに大部分を完成させた「中国における日本漢詩の受容」に関する研究成果と整合性を持たせ、原稿の整理・補足をし、『中国における日本漢文学の受容』という著書にまとめることが目標である。 もしこの研究が完成すれば、従来殆ど顧みられることがなかった日中文化交流史の新しい一ページが開かれ、研究の空白を埋めるに違いなく、東アジア漢字文化圏全体に対する視座を大きく変えることもできるのではないかと考える。漢詩漢文という純粋な中国文学のジャンルにさえ相互交流の事実があったことは、世界に対する日本文化の発信の歴史を新たな角度から照らし出すことにもなるのである。一方、安易に閉鎖的且つ自足的なものと考えられてきた中国文学も開放性・包容性を孕むものとして捉え直され、さらに広い視野で再検討されることも考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費は、その半分ほどの残額(614,840円)が生じたのだが、その原因は二つある。一つ目は「東方詩話学会」への参加を24年度から25年度に変更したこと、二つ目は平成26年度、勤務校の規定により研究休暇を取る予定で、3年間の研究の集大成として、より費用が必要であると想定される。25年度も合計1,414,840円のうち、物品費(パソコン等):500,000円、旅費(調査・学会等):500,000円、研究協力者へ謝金:200,000円、その他:214,840円と設定しているが、26年度に一部繰越し、一年間の研究休暇でより有効かつ集中的に使うために費用をまわしたいと考えている。
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Research Products
(4 results)