2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520243
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
蔡 毅 南山大学, 外国語学部, 教授 (50263504)
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Keywords | 拙堂文話 / 続文話 / 斎藤正謙 / 楊文公談苑 / 寂照 |
Research Abstract |
日本文化の中国へのいわゆる「逆輸入」、特に日本文化の重要な構成要素であった日本漢文の中国への流伝については、いままで学界でほとんど言及されていないため、研究代表者はこの空白を埋めようと考えている。 中国においては詩話と文話はいずれも重要な文学ジャンルである。「詩話」(漢詩にまつわる評論)は宋の欧陽修が名付けて以来長い歴史を有するが、最初に著された「文話」(漢文にまつわる評論)は実は中国人の著書ではなく、江戸文人斎藤正謙の『拙堂文話』八巻(文政十三年、1830)ならびに『続文話』八巻(天保七年、1836)である。斎藤正謙のこれらの文献は常に中国で重視され、その結論は今でもよく引用される。本研究は『拙堂文話』の中国への流布過程を全面的に解明した上で、その東アジア漢字文化圏における歴史的な意義を再評価しようと考えている。研究作業において、『拙堂文話』と『続文話』の本文および日本側の関係資料についての検討は大体終わったが、中国側の関係資料は検索手段の制限があり一部入手困難なので、中国への流布過程の全容を徹底的に究明できた段階には未だ至っていない。それでこのいわゆる「逆輸入」の課題に関連性がある別のテーマに先に着手し、宋代文人楊億の『楊文公談苑』に所収の入宋僧寂照の漢詩作品を取り上げ、「日本漢詩西伝挙隅――以『楊文公談苑』為例」と題し、2013年10月中国四川師範大学と西華師範大学共催の「東方詩話学会第8回国際学術研討会」で報告した。当論文は韓国延世大学『洌上古典研究』第38号(2013)に掲載された(『西華師範大学学報』2014年第1号に転載)。そこでこれからは『拙堂文話』の中国への流布過程に関する研究にもどり、2014年度内に決着をつけるべく努力する所存である。 なお、前年度の「唐人所見日本漢文考」は『唐代文学研究』(広西師範大学)第17号に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「中国における日本漢文の受容」というテーマは今まで学界ではほとんど認識されておらず、斬新とも言える研究分野であるので、研究代表者の発表した論文は開拓的な意義があると自負している。平成25年度は研究計画『拙堂文話』の中国への流布についての究明には至っていないものの、資料の検討はかなり進んでおり、関連テーマの学会発表をもおこなった上、賴山陽『日本外史』の中国への流布の調査にも着手したことを考えると、「おおむね順調に進展している」と言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
*本課題の研究対象として、入唐僧圓仁の『入唐求法巡礼行記』、入宋僧成尋の『参天台五臺山記』、江戸時代斎藤正謙の『拙堂文話』、賴山陽の『日本外史』等有名な著書のみならず、多くの文献に散見する漢文で書かれた官製文書、私用書簡等も視野に入れて、様々なルートを通して中国に伝わった日本漢文を網羅的に集める予定である。その上で、日本漢文の中国への流伝の全容を解明しようと考えている。今後は時代ごとに検討を加えた上で、すでに大部分を完成させた「中国における日本漢詩の受容」に関する研究成果と整合性を持たせ、原稿の整理・補足をし、『中国における日本漢文学の受容』という著書にまとめることが目標である。 もしこの研究が完成すれば、従来殆ど顧みられることがなかった日中文化交流史の新しい一ページが開かれ、研究の空白を埋めるに違いなく、東アジア漢字文化圏全体に対する視座を大きく変えることもできるのではないかと考える。漢詩漢文という純粋な中国文学のジャンルにさえ相互交流の事実があったことは、世界に対する日本文化の発信の歴史を新たな角度から照らし出すことにもなるのである。一方、安易に閉鎖的且つ自足的なものと考えられてきた中国文学も開放性・包容性を孕むものとして捉え直され、さらに広い視野で再検討されることも考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の計画であった『拙堂文話』の研究は、中国側の関係資料は検索手段の制限があり一部入手困難なので、中国への流布過程の全容を徹底的に究明できた段階には未だ至っていない。この未完成の課題について新たに開発された検索ソフトを購入して研究を再開させるため、次年度使用額が生じた。なお、平成26年度は勤務先南山大学の規定によって一年間「研究休暇」を取得できたので、研究資金を集中的に利用しようと考え、平成25年度の費用を一部繰り越したのである。 上記の理由で大容量のパソコンと検索ソフトの購入。 国際学会での研究発表と海外での資料調査をするための出張費用。その他。
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Research Products
(4 results)