2012 Fiscal Year Research-status Report
「もう一つの精神史――ハーン受容にみる近・現代日本」
Project/Area Number |
24520254
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ritsumeikan Asia Pacific University |
Principal Investigator |
アスキュー 里枝 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 講師 (10599632)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ラフカディオ・ハーン / 小泉八雲 / ハーン受容 / ナショナリズム / アイデンティティ |
Research Abstract |
本研究では日本におけるラフカディオ・ハーンこと小泉八雲の受容を検証し、そこに表れた日本の精神史を明らかにする。日本における小泉八雲研究は一人の作家の研究という以上の意味がある。つまり、ハーンを「古き良き日本」として記号化することにより、日本の伝統の良さ、あるいはこれからの日本のあるべき姿を見直すことである。日本では小泉八雲そのものに関する研究は数多くあるが、その受容をアイデンティティやナショナリズムから論じたものは殆どない。本研究では、小泉八雲の受容を通してみた、明治以来の近代による文化喪失の問題に焦点をあてている。そして、その受容の分析対象を(1)小泉八雲研究者、(2)(小泉八雲)非研究者の知識人、(3)ポピュラー・カルチャーの3つに分けて、より包括的な受容の検証を目指している。 当該年度では、平川祐弘などの研究者による著作の特徴をまとめた。また、研究者との違いを明らかにする段階で、山田太一の小泉八雲に関する劇、『日本の面影』を論じた論文を書き(単著)、ニュージランドの査読付き学術誌に発表した(Rie Kido Askew, "The Politics of Nostaligia in Vestages of Japan: Yamada Taichi's Representation of Lafcadio Hearn" New Zealand Journal of Asian Studies, vol. 14, no. 1, June 2012, pp. 87-103)。『日本の面影』は八〇年代にテレビ放送もされ、八雲ブームの火付け役ともなった社会的影響力のある作品だが、これまで誰にも取り上げられていなかった。八雲研究にとっても、日本精神史(この作品の人気は戦後のアメリカ化に疲れた日本人の郷愁とも関係している)にとっても意義あることだと思う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では日本におけるラフカディオ・ハーンこと小泉八雲の受容を検証し、そこに表れた日本の精神史を明らかにする。 当該年度では、(1)研究者の小泉八雲受容についての資料蒐集・分析を主に行った。日本における小泉八雲研究は一人の作家の研究という以上の意味がある。つまり、ハーンを「古き良き日本」として記号化することにより、日本の伝統の良さ、あるいはこれからの日本のあるべき姿を見直すことである。この点は(2)の知識人も(3)のポピュラー・カルチャーも一緒だが、イメージだけで論じるのではなく、一次資料(つまりハーンの著作)に基づいて議論を行っているところに特徴がある。当該年度では、平川祐弘などの研究者による著作の特徴をまとめた。また、研究者との違いを明らかにする段階で、山田太一の小泉八雲に関する劇、『日本の面影』を論じた論文を書き(単著)、ニュージランドの査読付き学術誌に発表した(Rie Kido Askew, "The Politics of Nostaligia in Vestages of Japan: Yamada Taichi's Representation of Lafcadio Hearn" New Zealand Journal of Asian Studies, vol. 14, no. 1, June 2012, pp. 87-103)。夏休み中に出張で赴いたオーストラリアでは、母校のモナシュ大学の日本研究科の研究者と意見交換も行った。研究はおおむね順調に進んでいるといえると思う。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、周辺資料、つまり小泉八雲研究者ではない知識人による言説とポピュラー・カルチャーにおける表象に着目し、より包括的な小泉八雲受容の実態を明らかにする。平成25年度は知識人の受容を整理するが、これは幅広く、古くは岡倉天心や柳田国男などから、最近では梅原猛や小堀圭一郎などのものがある。(小泉八雲)研究者のものと違って、彼らの小泉八雲論はタイトルに「小泉八雲」(またはラフカディオ・ハーン)の名前が入っていないものが多く、その点で資料集めには多少の困難が伴う。しかし、小泉八雲に関する言説は、日本人論、日本精神史、神道、日本文化論などに関する著作にしばしば含まれており、だいたいの見当はつけることができる。また、研究者の速川和男が、八雲言説が載っている資料の文献リストを作っており、周辺資料はかなり絞り込むことができる。平成25年度では、これらの言説の資料収集をし、これらを検証・分析してまとめる。またそれとともに、前年度の小泉八雲研究者による言説との違いをも考察し、浮き彫りにする。具体的には、知識人の言説をまとめたものを論文にして、25年度内に査読付き学術誌に送りたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費は、書籍の購入、資料のコピーなどに主に使用する予定である。平成25年度は知識人の八雲に関する言説について、検証分析するが、これらの言説は多岐にわたり、量も膨大なので、所属する研究機関で手に入らない資料は、東京や関西の図書館に行ってコピーをする必要がある。この際、コピー代に加え、旅費や滞在費も必要となる。また、膨大な資料をまとめるためにも、学生アルバイトによるデータ入力をしてもらう必要があり、謝金が必要となる。また、博士課程をすごしたオーストラリアにおける研究者との意見交換や学会のためにオーストラリアに赴く予定で、その際には旅費と滞在費が必要となる。
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Research Products
(4 results)