2012 Fiscal Year Research-status Report
助詞・助動詞・構文・文章構成を観点とした、三代集の表現研究
Project/Area Number |
24520259
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagano National College of Technology |
Principal Investigator |
小池 博明 長野工業高等専門学校, 一般科, 教授 (30321433)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 古今和歌集 / 後撰和歌週 / 拾遺和歌集 / 助詞 / 助動詞 / 構文 / 表現 / 和歌 |
Research Abstract |
平安和歌の表現研究は、歌枕・歌ことばなどの自立語と修辞とを対象として、成果をあげてきた。今後は国語の表現を決定的づける助詞・助動詞と、それによって組み立てられる構文、ひいては文章構成を観点とする研究の段階を迎えている。そこで、本研究は、古今集的表現と一括される三代集の表現を、助詞・助動詞・構文・文章構成を観点として、その展開を考察する。 本研究の意義は次のようにまとめられる。構文という観点の導入から、和歌の表現史を、自立語・修辞・句切れなどの1首中の個々の要素の変遷としてではなく、1首1首を総体的にとらえたうえで考察できる。それは、これまで自立語・修辞・句切れなどの要素ごとに個別的に理解されてきた和歌の表現史を、まさに和歌の表現そのものの変遷として有機的に関連づけることにもつながる。 本年度は、三代集及び拾遺抄と後拾遺集の文末語のデータベースを作成した。国語は、文末に用いられる語の性質で、文の内容や対象に対する作者の態度や判断を知ることができる。そこで、三代集と、拾遺集の母体となった拾遺抄と、三代集の表現を見極めるのに必要と考えられる後拾遺集(八代集の屈折点と位置づけられる)との文末語を調査することとした。 さらに、本年度予定していたデータベースの完成が年度途中で実現したため、研究計画を前倒しして三代集の表現の考察に入ることになった。取り上げたのは、初句切れの表現構成と、文末が「らむ」で統括される歌の表現構成とである。初句切れは新古今集の表現の特徴とされるが、初句切れに特徴的な表現の一部はすでに古今集から見られる(もちろん数は少ないのだが)。 また、文末「らむ」の歌は、平安時代の和歌を特徴付ける。そうした中で、拾遺集の巻頭歌は、係助詞との関係から特殊な表現と位置づけることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初、本年度は基礎資料の完成を目標とし、それについての考察は来年度以降という計画を立てていた。基礎資料とは、三代集と拾遺抄、後拾遺集の文末語のデータベースである。しかし、作業の遂行に尽力した結果、年度半ばでデータベースが完成した。そこで、来年度以降に行う予定だった、三代集の表現の考察に入ることとした。 今年度考察の対象としたのは、初句切れの表現構成と、文末に「らむ」を有する歌の表現構成である。 初句切れは新古今集の表現の特徴とされるが、その表現上の特質は、すでに古今集から見られる。まず、形態的には、初句切れの初句は、体言を含まない、1つの述語文節からできている場合がほとんどである。そのため、第2句以下には、初句の述語の対象や内容が叙述される。つまり、初句は、第2句以下で示される対象や内容を焦点化することになる。その典型が、早くから初句切れと深い関係を指摘されていた倒置的構造である。また、拾遺集や後拾遺集では、初句の7割以上が、要求文または感動文であるのも、特徴的である。これは、はやくに山崎孝子氏が新古今集の特徴として指摘したことに繋がる。 また、文末に「らむ」を有する歌の類型的な構文の一つに、「……や……らむ」がある。以前論じたように、拾遺集の巻頭歌(春立つといふばかりにやみ吉野の山もかすみて今朝は見ゆらむ)も、この構文である。しかし、この歌に特徴的なのは、係助詞「も」「は」が含まれる点ではないか。この特徴が、藤原公任以来の、当該歌に対する高い評価につながっているだろうと推測される。 前者については、研究成果を来年度早々に公表する機会が与えられた。また、後者についても、より論考を精緻にして公表する予定である。 以上から、当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
データベースを基に、本研究に有効な助詞・助動詞・構文・文章構成を抽出する(すでに前年度から、初句切れと文末に「らむ」を有す歌の考察が進められている)。 その際、本研究の指針となる以下の先行研究の成果を踏まえる。 小松光三氏は、万葉集と八代集の歌末語を調査し、平安和歌の特徴が歌末のアリ系助動詞にあることを指摘した(『国語助動詞意味論』1980)。この小松説を承けて、秋本守英氏はム系助動詞も古今集の表現を特徴づけるとしたうえで、特に「けり」「らむ」が、重要な役割を果たしていると指摘した。(「古今集の文法」1987)。そこで、本研究でも、アリ系助動詞とム系助動詞、特に「けり」「らむ」に着目する。 また、糸井通浩氏は、古今集に圧倒的に多い構文が、題述構文と接続構文であることを指摘する(糸井通浩「古今集の文法」2004)。前者は、既知の事がらを説明する構文であり(大野晋『文法と語彙』1987)、後者に条件接続が多いのを思えば、こうした構文が理知的と言われる古今集の表現と関係していることがわかる。また、句切れを表現構成の観点から捉えた一連の論考も重要である。 佐藤和喜説は、拾遺集時代の和歌の特徴として、接続助詞「て」「に」による連接を指摘する(『平安和歌文学表現論』1993)。したがって、接続構文では、「て」「に」に注意しなければならない。また、佐藤説は、拾遺集時代の特徴に2文が論理的関係を持たずに並立する歌をあげる。本研究の予備的研究によれば、これは、題述構文の題目と解説、接続構文の前件と後件がそれぞれ1文として独立したと推測される。このように、文と文との関係を明らかにするために、文章構成に着目する必要がある。 なお、本研究では、予備研究から小松光三説に注目し、援用してきた。それに関連して、昨年出版された『文法的詩学』(藤井貞和氏著)が、小松説を高く評価していることを付言したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
東京へ日帰りで出席する予定であった学会に出席できなかったため、当該研究費が生じた。次年度の、東京日帰りで出席できる学会の旅費に使用したい。
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Research Products
(1 results)