2013 Fiscal Year Research-status Report
南北戦争と大衆詩の応砲─讃歌・式典詩の社会的機能から音楽・美術への文化的影響まで
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24520266
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
澤入 要仁 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (20261539)
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Keywords | 南北戦争 / アメリカ文学 / アメリカ詩 / 大衆詩 / ホイッティア / ストーンウォール・ジャクソン / メリーランド |
Research Abstract |
本年度は、南北戦争期の大衆詩のうち、北部で書かれた詩を中心に研究を実施した。とくに、戦中に書かれ人口に膾炙した大衆詩を重点的に調査した。 その過程でもっとも興味を惹いた作品は、ジョン・グリーンリーフ・ホイッティアの詩「バーバラ・フリーチー」(1863)であった。これは、南軍の名将ストーンウォール・ジャクソンひきいる部隊がメリーランド州フレデリックを通過したとき、北部連邦の旗である星条旗をふってジャクソンを挑発した老婦人フリーチーの物語だ。この作品が興味ぶかい最大の理由は、昨年度に調査した南軍兵士の詩「あの喇叭卒」とはちがって、老婦人という、もっとも戦地から遠い存在といえる市民を描いているからである。そのようなもっとも銃後の市民の勇敢な愛国的行為を描いているからである。 そこでまず、「バーバラ・フリーチー」の受容を確認すると、雑誌に掲載された直後から、各地の新聞に転載されていたことが明らかになった。面白いことに、南部の新聞も掲載し、この詩を批判すると同時にその影響を危惧していた。その大衆的人気は明らかである。 さらにこの詩を分析した結果、以下のことが詳らかになった。まず、この詩が戦時中に書かれた愛国的な戦争詩であるにもかかわらず、同時に、戦争終結後の平和な世界もうたっていたことである。指揮官と彼を挑発した老女とは敵同士でありながら、和解の兆しも描かれていたのである。さらに、敵対した老女と指揮官が同じ死によってひとつになることは、終戦後、ひとつの国家による鎮魂や追悼の必要性も示唆していた。 すなわち、この詩は戦中に書かれたものの、戦意を鼓舞するような戦争詩でも、武力行使を批判する反戦歌でもない。そうではなく、次の世に来たるべき平和を祈った歌になっていた。愛国心をたたえた戦争詩でありながら、同時に平和を願う詩になっているという、この矛盾した両面性がこの詩の魅力になっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度と同様、本年度の達成度を「おおむね順調に進展している」と評価した。なぜなら、交付申請時に提出した本年度の計画とはその進め方が少し異なってしまったものの、申請書に明示した目的を鑑みれば、本年度の達成度は順調と考えられるからである。 しかも、本年度の研究は昨年度の研究と好一対をなしていると思われる。昨年度は、南軍の従軍兵士が部隊生活の日常を描いたユーモア詩を重点的に調査した。本年度は、北部の詩人による、北部の女性の愛国的行為を描いた作品に焦点を合わせて研究した。ユーモア詩が大衆詩の代表であるのと同様、無名の市民をうたった詩も大衆詩の代表といえる。本研究全体から眺めると、バランスのいい二年間になった。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究で明らかになったように、詩という形態は、一度に多様な機能を果たすことができる。それは本年度の研究でも当てはまる。愛国的な戦争詩が、同時に、戦後の鎮魂や平和を祈る詩になっていたからである。次年度も、南北戦争の大衆詩を調査しながら、詩のもつ、このような重層的な機能に光を当てたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
二度の海外出張を実施したが、たまたま校務と重なってしまった結果、当初の予定より滞在期間を短くせざるを得なかったため。 次年度は本研究の最終年度になる。研究を完成させるため、本年度からの繰り越しを有効に利用しながら、研究計画の実現を優先させる。
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Research Products
(1 results)