2014 Fiscal Year Annual Research Report
湖水地方の自然保護でワーズワスが果たした役割の再検討
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24520267
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
小田 友弥 山形大学, 教育文化学部, 名誉教授 (20085468)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 湖水地方 / 自然破壊 / 近代化 / 旅行案内書 / 地方史書 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の「研究実績の概要」で、1750~1850年頃に湖水地方の自然破壊として意識されたものとして、1.森林の伐採や在来種以外の樹木の植林、2.移住者による湖水地方とは異質の人工物の設置、3.鉄道の導入をあげた。平成26年度は、これらの事項に対して、湖水地方関連図書の著者とワーズワスが、何時頃どのように反応しているかの調査を進めた。 1と2に関しては、18世紀後半よりギルピンなど多くの旅行記・旅行案内の著者が気付き、批判の声をあげている。そして批判が功を奏し、改善の事例もかなり見られた。ワーズワスも『湖水地方案内』をはじめとする著作でこれらの点を批判しているが、彼の論点は先人と類似しており、この面では彼を自然保護の先駆者と見なすことはできない。 しかし3では事情が異なる。ワーズワスは1844年の12月に湖水地方に鉄道を敷設する計画に反対する「二通の書簡」を新聞紙上に掲載し、この鉄道建設への最初の反対者となった。しかし当時は鉄道建設がブームで広く歓迎されていたために、彼の主張は顧みられず、嘲笑の対象とさえなった。だが1876年に潮目の変化が訪れた。この年に明らかになった、湖水地方の心臓部まで鉄道を延長する計画に対してロバート・サマービルが「二通の書簡」を拠り所にして反対運動を展開し成功を収めた。そして「書簡」の精神はハードウィック・ローンズリーなどを介して、湖水地方に根付くことになった。 このように、ワーズワスが湖水地方の自然保護の創始者と目されるのは、多分に現代において1と2の論点が忘れられたことに由来するが、カントリーサイドに関する認識が変化したこととも関連している。19世紀の都市化・産業化は、カントリーサイドとしての湖水地方の需要を飛躍的に高めた。そのために3におけるワーズワスの主張の重要性が増大し、自然保護の原点として意識されるようになったのである。
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Research Products
(1 results)