2012 Fiscal Year Research-status Report
20世紀初頭の「金持文化」の形成とスコット・フィッツジェラルド文学
Project/Area Number |
24520274
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
上西 哲雄 東京工業大学, 外国語研究教育センター, 教授 (90193820)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 金持文化 / 資本主義 / F. Scott Fitzgerald / 労働 / William Faulkner / 金持 / 階級 |
Research Abstract |
本研究は、F. Scott Fitzgeraldを中心とするアメリカ文学に表出した、金持の自己意識を、特に労働観に焦点を当てて文化的に解明しようとするものである。 (1)Fitzgerald長編小説5作で議論の骨格を構築――当該年度は、Fitzgeraldの全長編小説5作を、労働観の変化という視点から読み直した。その結果、Fitzgerald の長編小説の中でも注目される後期3作は、それぞれ同時代の花形職業について一旦は成功するものの挫折する主人公の物語となっているが、初期の2作はいずれも金持の若者が仕事に就くことに躊躇あるいは拒否する物語となっていることが明らかになった。Fitzgerald文学を代表する長編小説5作を仕事を巡る連作と見た時、出発点は金持文化であることが浮かび上がった。 (2)金持文化の新たな要素――上記Fitzgerald文学の分析の過程で、19世紀から20世紀初頭にかけてホワイト・カラーの勃興と出版・ジャーナリズムの分野において職業倫理に注目が集まることを明らかにした。本研究において重要なテーマである労働観に強く関連しており、今後の研究の展開に寄与することが期待される。 (3)同時代の他作家にも目配り――当該年度においてはまた、同時代の他作家のテクストにも参照することで、本研究をより立体的に展開するように努めた。アメリカ文学全体の中でも金持を描く代表的小説家とも言うべきEdith WhartonのThe Age of Innocence (1920)、合衆国における金持文化を検討する際には看過できない南部の金持文化について描いたWilliam Faulkner、あるいは労働観を比較するという観点からErnest Hemingway などに検討を加え、本研究の観点を広げることに努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)研究の骨格を構築――初年度では、なによりもまずFitzgeraldの主要作品を再読し本研究の趣旨から解明し直して、金持文化を巡る議論の出発点となる基本的な仮説を確立することを目標としていたが、それはおおむね達成された。『アメリカ文学のアリーナ』への寄稿論文「ビジネス・ロマンスは可能か――F・スコット・フィッツジェラルド文学の大衆性の意味」において展開した議論は、こうして得た知見を基礎とするものである。(刊行は平成25年度) (2)金持文化の重要な要素を解明:また上記のFitzgeraldの長編5作の分析作業の過程で、本研究が対象とする19世紀後半から20世紀初頭にかけての新しい金持文化の形成に出版・ジャーナリズムが大きな役割を果たしたことを明らかにした。今後本研究における議論を構築していく上で、重要な要素となる新たな分野を獲得したと言える。 (3)議論の広がりを確保:さらに当該年度には、計画していた同時代の他作家の文学における金持文化の表象の検討を進めることができた。Edith Wharton、William Faulkner、Ernest Hemingwayらの作品に検討を加え、その成果の一部であるFaulkner論は論文として公表、Whartonについてはコーディネーターとしてワーク・ショップを開催している。 このように、早い時期に済ませておくべき研究の議論の骨太の柱の確立を初年度の内に達成した上で、文化表象の検討、他作家の作品への検討にも着手し成果も出しており、概ね順調に推進していると評価するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終目標はFitzgerald文学を中心とする文学テクストを事例として、19世紀後半から20世紀初頭にかけての金持の自己意識という意味での金持文化の形成を、労働観を軸に明らかにするというものである。これまでに達成されたものの大きな部分は文学テクストの検討・整理という、本研究の柱ではあるものの、当該作家の文学テクストの分析を中心とする狭い部分を深く追求する形となった。 (1)情報の収集・整理――これまで手薄であった文化的事象についての情報、研究対象とする個別の文化事象あるいは本研究と類似あるいは隣接するテーマについての先行研究の情報を集めること、既に収集しているもののこれまでの議論に活かせていない情報の整理などが急務と言える。 (2)本格的な議論の構築――前年度に本研究の骨組みとなる議論を仮説の形で一旦作り上げてあるので、上記のような情報の整理を進める中で、(A)「金持文化と何か」という問いに対する回答となる議論を構築すると共に、(B)「金持文学としてのFitzgerald文学とはどのような文学か」という問いに対する回答となる議論の構築を目指す。 (3)議論のフィードバックと公表――議論は仮説の状態でも可能な限り印刷媒体によるものはもちろんのこと、学会や研究会などでも積極的に公表する。こうした発表を通じて得た新たな知見や情報収集の進展具合によっては、そうした新しく獲得した知見・情報を躊躇することなく組み込み、議論の立て直し、あるいは議論の対象の入れ替えを行う。 初年度に仮説として打ち立てた議論を骨組みとして、さまざまな角度から肉付けして、大胆かつ洗練した議論の形成を目指すことになる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は(1)情報の収集・整理[設備備品費(図書)、調査・研究旅費、消耗品費(印刷用紙、記録媒体等)]、(2)議論の議論のフィードバックと公表[調査・研究旅費、複写費、消耗品費、(印刷用紙、記録媒体等)、謝礼(英文原稿校閲)設備備品費(図書)]が研究活動の内容となる。それに必要な研究費は次のようなものとなる。 ① 設備・備品費:フィッツジェラルドを中心する20世紀初頭作家および「金持文化」関連図書(一式×200千円)[東京工業大学] 100,000円 ② 消耗品費:コンピュータ関係等消耗品 100,000円 ③ 国内出張費:調査研究・成果公表 300,000円 ④ その他:英文校閲など 100,000円
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