2013 Fiscal Year Research-status Report
20世紀初頭の「金持文化」の形成とスコット・フィッツジェラルド文学
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24520274
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
上西 哲雄 東京工業大学, 外国語研究教育センター, 教授 (90193820)
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Keywords | 金持文化 / 資本主義 / 金持 / 労働 / 階級 / F. Scott Fitzgerald / William Faulkner / Ernest Hemingway |
Research Abstract |
本研究は、F. Scott Fitzgeraldを中心とするアメリカ文学に表出した金持の自己意識を、特に労働観に焦点を当てて文化的に解明しようとするものである。 (1)前年度にFitzgeraldの長編5作(未完のものも含む)における金持文化の描かれ方が、初期の2作はいずれも金持の若者が仕事に就くことに躊躇あるいは拒否する物語になっているのに対して、後期3作は金持を目指して就いた花形職業に挫折する物語になっていることを明らかにし、Fitzgerarld文学に表出する金持文化表象の根底には、人間にとっての労働の価値を巡る考察があることを確認した。以上を出発点に昨年度は、Fitzgerald以外の作家について検討を試みた。 (2)これが、南部における金持を描くWilliam Faulknerにあっては、たとえばAbsalom, Absalom!の場合、本来土地所有の不労階級、すなわち労働に価値を置かない階級であるはずの南部金持階級に成り上がろうとする主人公の、そのために謹厳実直に働くことのジレンマが、悲劇の物語を推進する契機となっていること、また物語を語る視点がビジネス・スクール開校直後のハーバード大学という北部資本主義のチャンピオンに据えられており、アメリカ文化の南北問題には金持と労働の問題がからんでいることを明らかにした。 (3)アメリカ合衆国を含むキリスト教文化にあっては、人間にとっての労働の価値の問題もキリスト教倫理の中に位置づけられることに注目し、Ernest HemingwayのThe Sun Also Risesの主人公が物語空間において労働の場と信仰の場を切り離していることを明らかにした上で、現実の生活において信仰が貫徹しにくい近代の状況が表出していることを示した。 以上のように、昨年度はFitzgeraldと同時代のふたりの代表的作家を中心に検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度でFitzgeraldの主要作品を手がかりに金持文化を巡る議論の出発点となる基本的な仮説を確立したのを受けて、二年目は同時代の他の主要作家であるWilliam Faulkner、Ernest Hemingwayに対象を広げ、研究対象の拡大と深化を実現した。 それぞれの作家を検討したことは、単に同時代の主要作家であるばかりではなくて、アメリカ合衆国の文化、文学にとって重要な要素である、南部(Faulknerの場合)およびキリスト教(Hemingwayの場合)において、本研究課題の問題意識がどのように機能するかを検証することができた。 このように、初年度に達成した研究の議論の骨太の柱を前提に、前年に着手した他作家の作品への検討に本格的に入り成果も出しており、概ね順調に推進していると評価するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる今年度は、出来る限り成果の公表を目指したい。具体的には学会などでの発表、印刷物での公表が中心となる。 その際に、この研究課題の遂行過程で明らかになったあらたな課題の追求を加味しながら進めて行きたい。この二年間で明らかになったのは、金持文化を支える価値観は、金持階級の労働観と労働者の金持観があいまって構成されており、労働の問題がその本質にある、ということである。そこで今年度は、本研究課題の成果を公表する過程において、さらにあらたな研究の展開を視野において、労働の問題により重点をおいた視点を果敢に加えていく。 さらに、問題を根本から考えるために19世紀後半の文学を検討に取り入れるとともに、この問題の現代への展望を加味するために、Fitzgeraldについては、晩年に取り組んだ映画産業における金持文化と労働の問題の検討も加味する。
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