2012 Fiscal Year Research-status Report
十九世紀末から世紀転換期の女性医師著述家研究―文学・医学・フェミニズム
Project/Area Number |
24520297
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
市川 千恵子 茨城大学, 人文学部, 准教授 (10372822)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 女性医師 / マーガレット・トッド / フェミニズム / アンチ・フェミニズム / 世紀末 / 女性の連帯 |
Research Abstract |
2012年度は、女性医師兼作家であるマーガレット・トッドによる小説、伝記、雑誌論文を分析対象とした。1874年の女子医学校の開校以降、女子医学生や女性医師は文学作品に多く取り上げられるようになったが、その表象は、女性の身体や知をめぐる因習的な社会的言説と無関係ではなかった。トッドがそうした呪縛からの解放に挑む様相を、小説Mona Maclean, Medical Student (1893)を中心テクストに据え、彼女の“Some Thoughts on the Woman’s Question’ (Blackwood’s Edinburgh Magazine, 1894)におけるフェミニズム論、恩師である英国女性医師のパイオニア、ジェックス=ブレイクの伝記、同時代の女性医師による同性への使命と健全な社会の構築への貢献というレトリック、さらに世紀末の女性作家やフェミニスト及びアンチ・フェミニストの議論から検証を試みた。トッドは小説では19世紀の教養小説を模倣し、ヒロインに「女らしさ」を体現させながらも、職業の選択と結婚生活における平等性を手に入れ、さらに女性の連帯を志向する女性医師という「新しい女」を創造することに成功している。それは先達の女性医師が使用した性差に基づく女性医師の社会的役割というレトリックを踏襲しているからであるが、一方で性差の強調は職場での完全なる男女の平等性の実現を遅延させるという矛盾も孕んでいる。以上の研究成果は現在論文にまとめており、年内中に投稿する予定である。また、19世紀後半の英国女性の旅行記から、たしなみとしての医学の初歩的知識は、自己解放だけでなく、現地の人々との接点として有効な手段となりえることを確認した。この議論については、6月にイタリア・ベニスで開かれる北米、英、豪のヴィクトリア朝文化研究学会の合同大会にて発表することが決まっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マーガレット・トッドの多様なジャンルの著作における女性表象を、世紀末の女性著述家の議論から検証し、論文としてまとめる段階にある。また、初歩的な医学や看護の知識が、女性の自己解放や、他者との結びつきにおいて重要な機能をもつことをヴィクトリア朝のレディ・トラベラーの旅行記から確認することができ、国際学会で発表の機会を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
女性医師による女性の連帯の志向がいかに追求されるのか、あるいはいかに実践されるのかを、世紀末から世紀転換期にかけて発表された、女性医師兼著述家による小説と健康指南書を中心に検証する予定である。さらに、女性の仕事とキャリア形成がどのようにジェンダー・ロールの変遷と関係するのかも考察していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度はイタリア・ベニスでの国際学会の研究発表と、イギリスでの文献調査と、二度の海外渡航を予定しているため、その旅費に研究費の3分の2をあてる予定である。その他の研究費は、図書の購入を中心に使用することになる。
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Research Products
(1 results)