2012 Fiscal Year Research-status Report
ラフカディオ・ハーンの<トランスナショナル>アメリカ:報道・翻訳・創作
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24520302
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
難波江 仁美 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (30244677)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 英米文学 / 比較文学 / Lafcadio Hearn / Journalism / Translation |
Research Abstract |
平成24年度は、ラフカディオ・ハーンのアメリカ時代(1870-1890)の新聞記事や翻訳作品を検証し、トランスナショナルな特徴の記述を目指した。シンシナティ時代に限らず、ニューオリンズ時代の作品にも視野を広げた。ハーンが南部で関心を示した異人種・異言語・異文化混淆を物語る「クレオール化」という現象が本研究のテーマ「トランスナショナル」を考える上で重要だと判断したからである。以下研究実績を具体的に記す。 5月、米国アメリカ文学会で研究発表(“Lafcadio Hearn’s ‘Re-told’ Ghostly Narrative; Evoking Ghosts and Creating Home in a Foreign Landscape”)を行った。ジャーナリズムと文学についての著書のあるS.フィシュキン教授からもコメントを頂き、翻訳論やトランスナショナリティへの関心の高さを実感した。7月、共同研究者ハッケンバーグ氏を神戸に招き研究会及び学生対象の講演会を持った。9月、スタンフォード大学及びノートルダム大学図書館における資料収集。ノートルダム大学では比較美術史を専門とするM. Kinsey氏にも話を伺う。ハーン研究者關田かをる氏からは、シンシナティ時代の未公開新聞記事のファイル、早稲田大学図書館所蔵の第一次資料を紹介していただいた。12月、富山大学で開催されたハーン学会では、「クレオール化」や複数言語を操るアメリカ作家としてのハーン像が論じられ、今トランスナショナルにハーンを論じる本研究の意義を再確認した。平成25年2月、明治神宮でのシンポジウム「外国人から見た神道」では、ハーンとクローデルの日本観がテーマ。刺激を受け、トランスナショナルな比較文学文化論の視点から拙論の執筆を進めた。ALAの発表を修正加筆し『神戸外大論叢』(2012年第63巻第2号)に論文を掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の目標は、ハーンのアメリカ時代の出版報道記事、翻訳、書評の検討。1)資料収集、内容テーマの分析、2)当時の新聞事情読者層の把握、3)ジャーナリズムと文学という三点の考察であった。研究過程でアメリカ時代のハーンの言説の特徴について違った視点を見いだし、分析対象の資料内容を修正した。米国アメリカ文学会での発表、スタンフォード大学およびノートルダム大学、富山大学へるん文庫閲覧等での資料収集、他日本のハーン研究者とも有意義な意見交換を行うことができた。以下具体的に記す。 1)については、研究を進める内にハーンのクレオールへの関心の重要性が浮上し、当初シンシナティでの扇情的新聞記事を中心に資料を検討する予定であったが、扇情的な記事に取り上げられたアフリカ系アメリカ人や貧しい移民たちになぜ注目したのかという根本的な問題を考察するべく軌道修正を行い、ハーンのクレオールへの関心に注目した。この論点については平成25年5月の米国アメリカ文学会で研究発表の予定である。2)については、共同研究者と意見交換し、ハーンの執筆した新聞雑誌の持つ役割に注目して考察した。特にニューオリンズ時代からの全国誌Atlantic Monthlyへの投稿は、地方から全国(世界)へと視座を開くハーンの意欲的な姿勢を再確認した。3)は本研究全体に繋がる大きなテーマだが、事実報道から創作に向かいながらハーンは新たなリアリズムの手法を工夫したと思われる。この論点は平成25年8月欧州比較文学会で研究発表の予定である。 以上、軌道修正を行いつつ研究を進めてきたが、テキスト分析を通してハーンのアメリカ時代の本質的な特徴に「クレオール化」という概念を重ねることで、ハーンのトランスナショナルな語りの特徴が明確になってきた。新たな第一次資料の発見には至らなかったが、発展性のある新たな視点で資料を分析できたのは意義深い。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きハーンのアメリカ時代のテキスト資料を収集精読、共同研究者と議論を重ね、ハーンのトランスナショナルな語りの特徴について学会等で発表、成果を出版する。 平成25年度は、「翻訳」と「クレオール」をキーコンセプトに、異言語・異人種・異文化混淆をめぐるハーンの言説を新聞記事と創作に探る。分析は次の三つの観点で行う:1)ハーンの「クレオール化」を巡る言説の分析、2)翻訳に関する記述と翻訳作品の検討、3)ジャーナリズムと文学、創作への移行。比較検討材料としてハーンの日本時代の作品も考慮し、彼のトランスナショナルな特徴をさらに明確にする。成果を発表し(海外研究発表2回、国内シンポジウム1回)、他専門家との意見交換を重ねる。冬期・春期休暇中に資料収集、共同研究者ハッケンバーグ氏を日本に招待し研究会を持ち、研究成果のフィードバックを行う。 平成26年度には、ハーンの報道記事や翻訳を彼の幽霊談に結びつけて考察する。異言語異人種異文化接触時に生じる翻訳不可能な沈黙部分、すなわち語り得ないものや民族の過去の記憶は、ハーンの幽霊談(「再話」)の核と考える。それを固有の民族や土地を越え「クレオール化」したトランスナショナルな幽霊談として新たに語り継ぐ点にハーンの語りの特徴を検討記述し、さらにハーンの歴史、民俗、神話、そして進化論的関心を考慮して多角的な分析結果を導く。 平成26年度は、24年度と25年度の研究成果をふまえてハーンのアメリカ時代における語りの特徴を総括する。本研究はハーンの日本時代(1890~1904)との比較研究に繋がる基礎研究を目指している為重要である。アメリカでの資料収集及び研究会総括、学会発表海外2回、国内資料収集3回、学会参加・発表1回を予定している。共同研究者と協力してMLA等学会でパネルを提案、成果を広く国内外の研究者に問い、英文によるハーン研究単行本の出版に繋ぐ。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
アメリカの図書館・公文書館での調査、共同研究者とのアメリカ及び日本での研究会・セミナー・成果発表を重視し、定期的な学会(国内・海外)発表を視野に入れて予算編成をした。以下具体的に記す。 設備備品費として、アメリカ文学・ハーン関連文献図書、ラップトップパソコン(昨年度購入マシンの破損破棄のため再購入必要、尚ラップトップは国内外での調査中のデータ保存、通信のために必要)、カメラ(マニュスクリプトや稀覯本などの撮影用として近影紙面がはっきり映る高画質のもの必要)を予定。合計320千円。 旅費は、海外学会研究発表旅費(アメリカ合衆国及びポーランド2回)、国内学会発表及び資料収集2回を予定。合計900千円。 人件費・謝金として、海外共同研究者への謝礼(共同研究者を日本に招き研究会を開きよりトランスナショナルな環境の中で広く成果を発信。学生を対象としたセミナーやバイリングアルな読書会の企画はより大きなフィードバック効果が期待できるイベント予定)として100千円。会場準備や資料作成の費用として、30千円を予定。合計130千円。 その他、図書費130千円、消耗費20千円を予定。以上総合計150千円を予定している。
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Research Products
(4 results)