2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520306
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
辺見 葉子 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (40245428)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | J.R.R. トールキン / ケルト観 / ケルティシズム / ブリテン観 |
Research Abstract |
本研究は、従前のトールキン研究の視点から抜け落ちていた「ケルティシスト」としてのトールキンに焦点を当て、未刊の草稿原稿の調査を通して彼の「ケルト観」を解明することを目的としている。 平成24年度は、国内では6月にイギリス児童文学会中部支部のシンポジウム「トールキンの『指輪物語』を語る」において、トールキンを「ケルト」という視点から考察した。 8月にはイギリスのラフバラ大学で開催されたトールキン学会で口頭発表を行い、トールキンの詩物語に見られる彼の「ポスト・ケルティシズム」と呼ぶべきユニークな「ケルト」に関する姿勢を分析するした。またこの学会では、'Tolkien in International Higher Education'というパネルディスカッションに、日本の高等教育におけるトールキンについて報告するパネリストとして口頭発表も行った。また、二つの口頭発表の司会も務めた。 学会後はオクスフォード大学、ボードリアン図書館のトールキン・アーカイヴおよびトールキンの蔵書の調査を一週間にわたって行った。本研究に最も密接な'English and Welsh'の手稿原稿の調査を開始、引き続きの調査の基礎づくりが出来た。蔵書調査でも、手稿原稿の場合と同様、手書きでメモを取る作業しか許されない状況であり、今回の調査では、時間的に蔵書のうちほんの数冊しか見ることしか出来なかったが、今後継続して調査を進めるにあたっての足がかりとなった。 3月には、アメリカ、ヴァル・パライソ大学で開催されたトールキン学会に参加し、『ホビット』研究の動向にふれ、また研究者との交流を深めた。 学会後は、マーケット大学のトールキン・アーカイブの調査を行った。今回は『指輪物語』の追補篇の言語に関する手稿の一部を検討するに留まったが、膨大なコレクションの調査を進める上での土台作りが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
夏に一週間、イギリス、オクスフォード大学ボードリアン図書館のトールキン・アーカイブ調査と蔵書調査、および3月にも一週間、アメリカ、マーケット大学図書館のトールキン・アーカイブ調査を行ったが、トールキンの手稿原稿は、コピーやスキャン、撮影が一切許されない上、極めて判読が難しく、どちらも一週間ずつの滞在では当初の計画ほどの目的達成には至らなかった。しかし手書き文字の判読は、目の「慣れ」が極めて重要であり、一週間の滞在後半には大分作業効率が上がってきた。 ボードリアンのアーカイブでは、'English and Welsh'の草稿において、同時代のドイツ語によるケルト語研究書への言及の証拠が見つかり、トールキンの「ケルティシスト」としての背景研究にとって、重要な発見であった。また、蔵書の書き込みの調査では、フランス語のケルト概説書を丹念にメモを取りながら読んでいた証拠も発見できた。まだ手がかりを掴んだ程度であるが、今後の研究の重要なステップとなった。 マーケット大学のトールキン・アーカイブの調査でもボードリアンのアーカイブと同様の困難と直面したが、トールキンの人造言語に関する重要な資料の発見も得られた。 以上のように、作業自体は予想以上に時間がかかり思うほど進まなかったが、研究の展望については満足のいく手応えは得られたという状況であり、全体としては「やや遅れている」という評価となった。
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Strategy for Future Research Activity |
慶應義塾から4月~9月までの5ヶ月間の研究休暇を与えられたため、まず4月から6月の初めまでは、マーケット大学のトールキン・アーカイブにおいて、トールキンの「ケルト観」具体的には、British-Welsh観に関連する手稿原稿の調査を継続する。また5月にはカラマズーにおいて開催される国際中世学会で、'Tolkien as a Celticist'と題した口頭発表を行う。 6月初めにアメリカからイギリス、オクスフォード大学に移動し、6月一杯、ボードリアン大学のトールキン・アーカイブで、昨年夏に始めた'English and Welsh'の草稿調査を継続する。 7月は、ウェールズ、カーディフ大学主催の現代ウェールズ語のサマースクールに参加し、トールキンのBritish-Welsh観解明に欠かせない、現代ウェールズ語を学ぶ。 8月から9月半ばに帰国するまでの間は、再びオクスフォードに戻り、ボードリアン図書館のアーカイブ、およびトールキンの蔵書の調査を続ける。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
5月のカラマズーでの国際学会参加費および滞在費、7月のウェールズ語講座への参加費および滞在費、また帰国後、2014年3月にはトールキン学会と、マーケット大学アーカイブの調査のために渡米する計画であり、その旅費と滞在費が主な使用項目となる。
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