2013 Fiscal Year Research-status Report
現代ハリウッド映画とショック効果:イメージはネオリベラリズムをどう表象するのか
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24520318
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
吉本 光宏 早稲田大学, 国際教養学術院, 教授 (80596833)
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Keywords | ハリウッド映画 / ショック / ネオリベラリズム / 新自由主義 / 暴力 / 正義 / 偶然 / アメリカ |
Research Abstract |
現代ハリウッド映画と新自由主義の関係を、過剰な視聴覚的刺激が生み出すショック効果に注目して明らかにすることが、本研究の目的である。平成25年度は(1)「絶対的暴力」、「必要な嘘」、「操作される時間」という3つの主題を理論的に発展させること、さらに当初の研究計画書にもとづいて(2)「現代ハリウッド映画に繰り返し登場する《境界》という物語的主題とその両義性の意味を明らかにする」という課題に取り組むことを中心に研究活動を遂行した。具体的な映画作品を、《境界》の両義性という主題とそのヴァリエーションや、時間の複雑化、商品化された時間体験などに注目しながら精読するという作業を続けると同時に、一年を通じて新たな資料を収集し、さらに8月にはニューヨーク大学での文献調査および映像資料収集のために米国へ出張した。平成24年度にはショックをたんなる視聴覚的効果と同一視するのは誤りだということが明らかになったが、本年度の研究によって、現代ハリウッド映画のショック効果は物語とスペクタクルという対立を根源的なレベルで無効化するのではないかという仮説を立てるに至った。正義と暴力、ポスト冷戦時代とアメリカの相対的凋落という問題が現代ハリウッドによってどのようにアレゴリーとして表象されているかを考察するために、マーベル映画、その中でも特に『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011年)に焦点を当て、スーパーヒーローと新自由主義の関係を分析した論文を執筆し、『ユリイカ』(2014年5月号)に発表した。また、「不可視のスペクタクル」という一見すると矛盾した概念の可能性を探究するために、映画と放射能という主題に注目し、“Radiation, Spectacle, and the Invisible Everyday”というタイトルの招聘講演を、平成25年11月に韓国の延世大学 でおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現代ハリウッド映画におけるショック効果と新自由主義のあいだにどのような関係が存在するのかを理論的に考察し、個々の映画作品が経済的および統治のシステムとしての新自由主義をアレゴリーとしてどう表象しているかを具体的に分析するという研究計画は、滞りなく進行している。文献・映像資料の収集やリサーチに関連して、計画に大きな変更をせまるような問題には遭遇していない。また3年間の研究終了後に出版を計画している単著書の原稿の執筆についても同様である。しかし平成24年度の研究報告書にも記したように、映画作品のどの側面や特徴が新自由主義のアレゴリーとして機能しているかを事前に予測することは難しい。(つまり「新自由主義映画」というジャンルが現代ハリウッドに存在するわけではない。)そのため、機械的に考察すべき映画作品のリストを作成することが困難であり、結果的に予定よりも収集した映像資料の量が少なくなってしまった。さらに当初の研究計画にあったアメリカの学会で研究発表をおこなうためにパネルを組織するというプランに、変更を加えざるをえなくなった。本研究課題の新しさが既存の枠組みには簡単に収まらないために、予想以上に共同パネリストを探すことが難しく、残念ながら平成25年度中にパネルを組むという計画は実現できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度である平成26年は、「絶対的暴力」、「必要な嘘」、「操作される時間」、「境界の両義性」という主題に注目しながらこれまで蓄積してきた研究成果を整理し、これら4つの主題に加えて、正義、自由、偶然などの概念を具体的な映画作品のスタイル的特徴や物語の構造と関連付けて精査し、現代ハリウッドと新自由主義との関係を明らかにしていく。考察対象となる映画作品に関しては最終的なリストを確定し、本年度中に必要な映像資料を可能な限り日本およびアメリカで収集するつもりである。また、おもにニューヨーク大学図書館で文献調査をおこなうために、平成26年8月に約10日間の米国ニューヨークへの出張を予定している。一昨年に引き続きアメリカの学会でパネルを組んで発表することを目指すが、本年度はそれだけに拘らず、国内外で個人での講演をおこなう可能性も同時に探っていくことにしたい。さらに研究成果を広く社会に発信できるように、日本語で1ないし2本の論文を執筆し学術誌あるいは専門雑誌に発表し、研究期間終了後の出版を念頭に置いて、単著書のアウトラインを決定した上で原稿の執筆を続け、できるだけ完成形に近づけていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年8月および平成26年3月に文献調査・資料収集のために米国へ出張したが、その際、本研究とは直接関係のない招聘講演やシンポジウムでの発表、調査なども同時におこなうことになった。研究費の混同使用を避けて外部の資金だけで旅費を賄ったため、結果として当初の計画よりも研究費の使用額が大幅に少なかったことが、次年度使用額が生じた主な理由である。さらに映像資料についても、すべてを一括して購入するのではなく、具体的作品の分析や原稿執筆をおこないながら必要な資料を手に入れるという方法をとったため、使用した金額が予定よりも少なくなってしまった。 平成26年8月に本研究の研究費を使用してニューヨークへ出張し、ニューヨーク大学の研究図書館で文献調査をすることが、すでに確定している。さらに昨年度使用しなかった旅費を使って、平成27年3月にも学会でのパネル発表あるいは個人での講演等のために米国へ行くことを計画している。映像資料については本年度中に最終リストを作成し、本研究に必要なDVD等をすべて購入する予定である。
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Research Products
(2 results)