2013 Fiscal Year Research-status Report
14・15世紀の宗教文学と一般信徒の信仰:写本文献の伝播と変容に基づく研究
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24520329
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Research Institution | Osaka Sangyo University |
Principal Investigator |
田口 まゆみ 大阪産業大学, 人間環境学部, 教授 (30216832)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
家入 葉子 京都大学, 文学研究科, 教授 (20264830)
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Keywords | 英文学 / 中英語 / 文献学 / 写本 / 方言 / 聖書 / Caxton |
Research Abstract |
課題の研究手段としてケンブリッジ大学モードリンコレッジ、ピープス図書館所蔵の2125写本に収録されている『キリストの受難の黙想』中英語訳の校訂版作成を進めてきた。平成25年度にはその根幹となる作業をほぼ終了し、Introduction、校訂テキスト本文、注、Glossary、参考文献表の全ての初稿を出版先となるMiddle English Textsシリーズの監修者に提出することができた。 以上の過程において、研究代表者は言語学的考察以外のすべてに関与してきたが、特に、Pepys 2125写本に収録される50を超えるテキストそれぞれについて、関連する写本や作品との照合による実証的な研究を進めてきた。この写本は14世紀末から15世紀末の一世紀に渡り、複数の修道者や学僧の手によってテキストが積み上げられていった形跡が認められるので、特に15世紀半ばに追加された第2テキスト『キリストの受難の黙想』とともに、15世紀末に追加された最終テキスト『聖母の4つの願い』に注目し、15世紀における宗教文学の受容と信仰形態の変容について考察した。 さらに研究課題に関連して、代表者の15世紀における聖書注解と聖書物語の受容についての研究を発展させ、Caxton訳による『黄金伝説』に取り込まれた聖書と聖書注解及び聖書物語の英語訳の分析を始めた。 研究分担者は、平成24年度に引き続き、Pepys 2125写本を中心に、言語の分析を進めた。同写本の第2テキストについては、名詞、動詞、指示代名詞というように品詞ごとの分析をある程度まとめることに成功し、統語面の分析、方言や時代との関連についても、一定の結論に到達してきている。hitとitの揺れについては、昨年度から研究を着手しているところであるが、平成25年度においては、論文の形でまとめるところまで議論を進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は、全般においておおむね順調に進行していると言える。 主要な研究対象としているPepys 2125写本第2テキストの校訂版の出版準備は、25年度中に全文の原稿を、出版先となるMiddle English Textシリーズ(Heidelberg大学出版)のシリーズ監修者に提出することができた。 課題の第一研究目標第一段階を完了したので、研究代表者は研究課題の研究対象を拡大したが、この新しい方向性についても、Oxfordの権威ある初期英語文献シリーズにプロポーザルを提出し審査を受けた結果、校訂本出版を目標として実行可能であることを確認することができた。 研究分担者はPepys 2125写本の第2テキストの校訂版の出版準備のために、言語分析を行った。その際に、同じ写字生が転写したとされる、同写本の第1テキストとの比較も行い、その詳細を確認するためにケンブリッジ大学で写本の確認を行うなど、必要な基礎作業をほぼ終えることができたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
主要な研究対象としているPepys 2125写本の第2テキストの校訂版の出版準備は、今後、監修者とのやり取りを通して修正作業が進む。26年度夏に第2段階に進むことができれば、計画期間内に最終原稿に近づくことが可能であると予測できるが、相手側の事情に左右される要因が大きいので、場合によっては研究の一部(原稿の修正)が次年度以降も継続することが予想される。 この間研究代表者は、上記Pepys 2125写本の最終テキストについての研究を進め、国際学会(7月)、学会誌で発表する。また、上記Caxton訳『黄金伝説』を分析対象とする、15世紀における聖書注解と聖書物語の受容についての研究を進め、国際学会での発表も行う(9月)。 研究分担者は、上述のように、平成25年度が終わった段階で、主要な分析対象であるPepys 2125写本の第2テキストの言語をある程度網羅的に記述することができた。しかしながら本研究は、14世紀、15世紀全般を視野に入れながら、中英語後期の宗教文学および写本の伝播を議論することを最終目標としているので、今後は、Pepys 2125写本にこだわらずに、扱うテキストの範囲を広げながら、これまでの研究の成果を時代のコンテキストに位置づける作業を行いたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究代表者は2014年度に2回の国際学会発表が決まったため、その旅費に充当するため、2013年度予算の一部を2014年度に先送りした。 7月、英国で学会発表(Leeds:International Medieval Conference) 9月、英国で学会発表(London:Old and Middle English Studies: Texts and Sources) その他、研究資料購入、投稿論文及び学会発表原稿の英文校正などに使用することを計画している。
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