2013 Fiscal Year Research-status Report
ロバート・ヘリックの抒情詩における社会性と政治的機能
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24520333
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Research Institution | Akita National College of Technology |
Principal Investigator |
古河 美喜子 秋田工業高等専門学校, その他部局等, 講師 (80462125)
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Keywords | Herrick(1591-1674) / Hesperides / 17世紀イギリス詩 / 政治的機能 |
Research Abstract |
本研究は、これまで行ってきた若手研究(B):平成20~21年度「ロバート・へリックの理想郷と動乱のイギリス社会」及び平成22~23年度「ロバート・へリックの田園世界―『ヘスペリディーズ』の抒情性と社会性―」における取り組みを踏まえ、17世紀イギリスの王党派詩人ロバート・ヘリック(Robert Herrick, 1591-1674)の抒情詩集における社会性や政治的機能について考察を深め、その成果を纏めるというものである。研究の柱として第一に「田園生活に隠された政治性」、第二に「博物学・民俗学的興味に隠された政治性」を大きな柱に据えており、前年度は第一の柱中に設定した題材・テーマで分析を行った。 平成25年度は、当初の計画通り第二の柱の枠組みにおいて研究の進展を図ったが、所属する比較文学会のワークショップに参加し、へリックの得意とする「今日を楽しめ」(“carpe diem”)の思想について日本で大正時代に流行した「ゴンドラの唄」の源流としてのヨーロッパの伝統という大きな視点で俯瞰し捉え直すことができた。 以下の研究発表及び論文作成を行った。 学会発表(2件) 1. ワークショップ「『ゴンドラの唄』の比較文学」平成25年7月27日 日本比較文学会東北支部第11回比較文学研究会 於仙台ビジネスホテル 2. ワークショップ「生誕110年・没後80年/小林多喜二の国際性」平成25年11月30日 日本比較文学会2013年度東北大会 於カレッジプラザ(秋田市) 雑誌論文(1件) 「Herrick as a Natural Historian: Examination of word-of-mouth traditions and relationship with Kumagusu Minakata」『秋田工業高等専門学校研究紀要 第49号』平成26年2月 pp.84-89.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述の若手研究(B)における成果をもとに、へリック詩集の政治性を探るため、これまで研究の柱としてきた二つ目の柱を考える上で詩人の思想の根幹を成す「カルペ・ディエム」と「メメント・モリ」について、ワークショップ「『ゴンドラの唄』の比較文学」を通して改めて整理ができた。また同じく現在居住している秋田縁の作家である小林多喜二(1903-1933)との比較について、ワークショップ「生誕110年・没後80年/小林多喜二の国際性」において研究の機会を与えられ、以下の知見を得た。プロレタリア文芸運動『種蒔く人』の発祥の地・秋田に生まれた多喜二は同じく秋田出身の小牧近江らのクラルテ運動の影響を受け社会主義ひいては植民地問題に関心を持つようになる訳だが、『蟹工船』(1929)などに見られる「書かなければならない」という決意はプロレタリア作家としての使命に満ちており、このような意識は時空を超えてイギリス十七世紀の王党派詩人ロバート・ヘリックが担おうとした詩人として持つべき社会的役割や詩作態度とも結びつくように思われる。内乱期のイギリスという時代性との関わりから「政治的でありつつ、美学的側面をテクスト中に並存させ文学作品としても成立させようとする」ヘリックと「共産主義者であり、しかし同時に作家であった」多喜二の作家としての姿勢及び「書く」という行為から、醜悪な現実に向き合う共通の心眼を見出すことができた。「〈研究ノート〉ヘリックに見られる博物学者的要素―南方熊楠との関連で―」『十七世紀のイギリスの生活と文化』(共著)金星堂,pp.221-242(1997.10)を再考し、英文原稿「Herrick as a Natural Historian: Examination of word-of-mouth traditions and relationship with Kumagusu Minakata」に纏めた。
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Strategy for Future Research Activity |
ワークショップを通じ、先ず「乙女たちに 時間を大事にするように」(‘To the Virgins, to make much of Time’)を読み直すことで流行歌「ゴンドラの唄」に流れるヘリックの死生観を、また小林多喜二との比較から、ピューリタン社会や動乱の時代にあって何より「生きる」ことの悦びを理想郷的世界をあらわす『ヘスペリディーズ』というタイトルを付した詩集に込めた点を再確認した。形而上詩人やピューリタン詩人ではなく第三のグループである王党派詩人の系譜を引き「遊びの精神」を好んだ作家ヘリックの詩は、牧師として赴任したデヴォンシアという片田舎で営まれる民衆の風俗に接し、ありのままの姿をある種民俗学的視点で記述した時に、生の輝きに満ちてくるのだが、それはピューリタンの台頭によりロンドンを追われた王党派詩人としての苦い経験や苦悩のいわば反照でもあった。詩集全体が宿す気風には健全な批判精神が見て取れ、中で「抒情性と社会性」また「美学と政治」といった相反する世界観が溶け合う作用を巧みに生み出していることを確認した。 今年度は上記ワークショップ参加により日本文化(大衆文化)や日本文学・作家という視点が与えられ、それに伴い研究の方向性が広がった。こうしたジャンルでは例えば「ヘリック詩の日本における受容一明治期の翻訳と評論一」といったテーマも考えることができる。ヘリックが日本に紹介された最初の例であろうとされ二篇の詩を掲載した明治27年発行の大和田建樹篇訳『欧米名家詩集』、また文学批評の分野において最初にヘリックを取り上げたとされる夏目漱石の『文学論』中の言及、ヘリックを評し後のヘリック受容に影響を与えたと思われるラフカディオ・ハーンの「ヘリック論ノート」(“Notes on Herrick”)なども題材として挙げられる。研究全体の整合性など考えながら、今後盛り込める部分は上手く加えてゆきたい。
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Research Products
(4 results)