2014 Fiscal Year Research-status Report
ロバート・ヘリックの抒情詩における社会性と政治的機能
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24520333
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Research Institution | Akita National College of Technology |
Principal Investigator |
古河 美喜子 秋田工業高等専門学校, その他部局等, 講師 (80462125)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | Herrick(1591-1674) / Hesperides / 17世紀イギリス詩 / 政治的機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、平成20~21年度「ロバート・ヘリックの理想郷と動乱のイギリス社会」及び平成22~23年度「ロバート・ヘリックの田園世界―『ヘスペリディーズ』の抒情性と社会性―」(科研費採択課題二件)において四年間に亘り続けてきた若手研究(B)における取り組みを踏まえ、17世紀イギリスの王党派詩人ロバート・ヘリック(Robert Herrick, 1591-1674)の抒情詩集における社会性や政治的機能について考察を深め、その成果を纏めるというものである。 平成26年度は、本研究課題の柱として設定したテーマや題材に通底するへリックの詩想「今日を楽しめ」(“carpe diem”)について、前年度の研究実績であるワークショップ「『ゴンドラの唄』の比較文学」(パネリストとして参加)における研究成果をもとに、以下のシンポジウム(司会兼パネリストとして参加)において研究発表を行った。 学会発表(1件)「ヘリックと『カルペ・ディエム』の詩想」(シンポジウム「オリジナルとアダプテーション」) 平成26年11月30日 日本英文学会東北支部第69回大会 於弘前大学 発表(報告)では、ヘリックという詩人を中心に、ヨーロッパの伝統的な主題「今日を楽しめ」の詩想について、ヘリック詩「乙女たちに 時間を大事にするように」またその系譜を引く「ゴンドラの唄」というように、<ギリシャ・ローマ>→<イギリス16-17世紀>→<明治期~現代の日本>と時系列的にテーマがどのように現れ展開していくのかを概観した。ホラティウス受容を中心としながら現代の映画作品『いまを生きる』にまで、詩作品・唄・映像作品という形で、新しい構造を取り入れ、音楽的要素とも結びつきながら、本来保持する抒情的性質を多面的価値や感動に変換・再生してゆく様相を確かめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
文献収集や論文の整理など時間的制約の中で不十分な面があったが、これまでの研究成果をもとに、ヘリック詩集の王党派的源泉を探るため、前述のシンポジウムにおいて、以下のような研究発表を行うなど分析を進めた。 17世紀の王党派詩人ロバート・ヘリックは、彼の詩集『ヘスペリディーズ』のタイトル自体がもともとはギリシャ神話に登場するヘスペリディーズ姉妹に由来し「地上の楽園」を示すものであると共に代表作「乙女たちに 時間を大事にするように」のモチーフが古代ギリシャ・ローマの思想「今日を楽しめ」(“carpe diem”)であることなどから想起されるように、古典文学からの影響を受け、ギリシャ・ローマ時代を憧憬していた。 シンポジウムにおける発表(報告)では、アダプテーション(翻案)の問題について、へリックの代表作「乙女たちに 時間を大事にするように」のモチーフ(「今日を楽しめ」)に着目し、アナクレオンやホラティウスの系譜を引くこのヨーロッパの伝統的な主題・テーマが古今東西の(文学)作品の中でどのように翻案され広がっていったかをヘリックを中心に紹介しながら考察した。ヘリック詩の日本における受容については必ずしも明らかにされていないが、日本で大正期に吉井勇作詞・中山晋平作曲で流行した「ゴンドラの唄」の歌詞と「今日を楽しめ」の主題との関連などについても言及し、へリックと日本との関わりについて探る上で重要な手がかりになることも併せて確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
シンポジウムでは、「オリジナルとアダプテーション」というテーマで、四人のパネリストが演劇・詩・小説と絵画・サブカルチャーというジャンルで、シェイクスピア以降の作家たちについて研究発表(報告)を行った。それぞれの作家・作品における影響関係やアダプテーションについて考え、その受容や展開を検証し、アダプテーションの多様性と可能性について再確認した。 リンダ・ハッチオン(Linda Hutcheon)は、アダプテーションとは「ひとつのコミュニケーションの体系から別の体系へコードが変換されるひとつの形態」であると共に「時代を隔て、また異なる文化で実践されることにより違った機能をもちうる」ことを著書『アダプテーションの理論』(A Theory of Adaptation)初版の序文中で示している。さらに〈オリジナル〉と〈アダプテーション〉の関係性自体が、「生物とその起源の関係にたとえるなら生物としての重要性は等しく」、同様に「文化(史)的アダプテーションもそのオリジナルと同価値であって優劣はない」ことも、第2版序文の最後で述べている。 前述の通り、シンポジウムでは、フロア間との議論も交え、特定の国や時代を超えた多様な論点の設定を通しテクスト探求することによって以下の本質的な問題が浮かび上がってきた。「最早オリジナルとアダプテーションを区別することはナンセンスであり、両者は対等な関係である」こと、「テクストが本来保持している意味や複数の意味がお互い影響しあいながら、何かを失い同時に得つつ、或いは変えられない何かを進(深)化させ、成長し続ける」ことが確認できた。 次年度は本研究課題纏めの年として、平成24年度からの成果を挙げられるよう、研究を進めてゆきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
校務が忙しく先行研究精査の為の資料・文献収集や論文の整理などを行う時間が十分に取れない状況であった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
初期近代イギリス文学関連を中心とした学術図書の購入、調査・研究及び成果発表の為の旅費(所属する日本英文学会、日本比較文学会、十七世紀英文学会)に充てたいと考えている。
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Research Products
(1 results)