2012 Fiscal Year Research-status Report
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24520336
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
ヘーゼルハウス ヘラト 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (40375382)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 福島原発事故 |
Research Abstract |
ペーター・スロータダイクの著書Du must dein Leben aendern(以下「D」と略、『生き方を変えよう』)のドイツにおける重要性は、本年に彼がドイツの Boerne賞を受賞したことによって再確認されたといっていい。なかでもDは受賞の大きな理由となり、この作品がドイツにおいて広範かつ活発に議論されてきたことを証明する結果となった。 本研究が進めるDに関する分析は、予定通りに進行している。本年は、文学をめぐる議論が展開されているDの最初の章の分析、および「危機」をめぐって近現代の生産されてきた様々な文学作品の分析を行い、Dがそもそも立脚する主題的、構造的枠組みを明らかにした。分析に際しては、フクシマに関するドイツ、オーストリア、日本の文学的事例が有用であった。 また、成果の発表、学界への貢献としては、①5月にアルジェリアのオラン工科大学で開催された「持続可能なエネルギーと社会」をめぐるシンポジウムにて発表を行った。発表では、自然科学において議論されているエネルギーと安全の観点からDを分析し、Dの現代的意義を明確化した。②9月には筑波大学アメリカ文学会の主催するシンポジウム「life」においてスロータダイクの提起するAnthropotechnicsの基盤となる免疫学に関して講演を行った。③10月には日本独文学会においてシンポジウム「フクシマ後のドイツ文学」を主催し、ドイツ文学研究におけるスロータダイクの思考の妥当性を検討した。④さらに、2013年の3月には、本報告者の指導学生であり本研究のリサーチアシスタントでもある井上百子が、ドイツ現代文学ゼミナールにおいてこの研究に関する発表を行うに際して、指導を行った。 研究資料は、実質的な必要が生じた都度、随時収集・購入した。また、教育への貢献として、本研究において得られた知見や資料は、授業における教育素材として活用した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
自然科学や政治学、哲学の分野で生産された免疫学に関する言説の収集・分析を7月に開始した。免疫学は、Anthropotechnicsの基盤となる非常に重要で複雑な概念であり、報告者は、病理学、健康管理、国家の安全保障にまで及ぶ、この概念の言説生産・普及の背景を国際的、歴史的視点から明らかにし、9月に筑波大学アメリカ文学会の主催するシンポジウム「ライフ」において発表し、それに基づく論文を2013年5月に刊行する予定である。この発表は、本研究が国際化やグローバル化という視点から免疫学をとらえかえし、より明確化する契機ともなった。 また本報告者の指導学生である井上百子は、彼女の研究対象であるオーストリア人ノーベル賞作家エルフリーデ・イェリネクがフクシマに関して次々に発表してきた多数の文学作品を博士論文に組み込んで議論を行っている(2013年夏提出予定)。フクシマ以後の文学を考察するうえで欠くことのできないイェリネク作品を分析する彼女の論文を指導するなかで、本報告者のDに関する分析の射程や問題意識を発展・拡充することができた。 さらに去年開催されたフェスティバル・トーキョーでは、フクシマを題材としたイェリニクの戯曲に関して多くの知見が実際の上演を通してもたらされるとともに、ドイツ語圏においてフクシマに関する議論を重ねていく重要性を確認することができた。また、本報告者が主催した、日本独文学学会でのシンポジウム「フクシマ後のドイツ文学」の準備を進めるなかで、他大学の若手研究者と緊密な研究協力関係を構築することができたのも、本年の大きな成果としてあげることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年7月にパリで開催される国際比較文学会にてフクシマ後の日本に関するパネルに参加し、「フクシマ後のドイツと日本の文学」という題目で新たな資料と分析にもとづいた発表を行う。この国際学会では、日本を含めた諸外国の研究者との意見交換、研究協力の機会を探る。またパリに滞在するあいだには、パスツール研究所を訪問する。本研究所への訪問によって自然科学、政治学哲学における免疫の概念歴史的展開について全面的な再検討を行うための基盤を得る。この作業はスロータダイクの提起するAnthropotechnicsという概念に焦点を当てる本年度の研究において欠くことのできないものである―Anthropotechnicsは、Dにおけるスロータダイクの議論において、そして本研究において中心的な概念となっている。 また、今年度は、免疫学とAnthropotechnicsの関連資料をフィクション/ノンフィクションを問わず、ひろく収集・分析するとともに、ドイツへの調査旅行、ならびにスロータダイクへのインタビューを計画している。 教育への貢献としては、本年には、これまでフィクション/ノンフィクションの分野で生産されたフクシマ危機に関する表象や記事を題材として大学院において三つの授業をおこなう。また、本報告者の指導学生である井上百子が本年6月に予定している博士論文提出に際して助言・指導をひきつづき行う。上述のとおり、彼女の博士論文は、オーストリア人作家イェリネクによる東日本大震災を題材とした戯曲を論文の一部として取り扱うものである。また、本年度からは、大量の日本語テクストを取り扱うため、日本人のリサーチアシスタントによる日本語サポートが必要となることが見込まれる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度は、本年度に多額の出費が見込まれるため、242,800円を本年度に繰り越した。まず本年度に多くの出費が見込まれる大きな要因となるのが、講演依頼の旅費を含む謝金である。本年度には、本研究の研究対象となるDの著者であるペーター・スロータダイク氏の招聘講演をいくつかの大学で予定している。講演の際には、他の日本人研究者とのディスカッションも予定しており、その際の謝金が多額になることが予想される。また、万が一、スロータダイク教授の来日が不可能となった場合には、本報告者がドイツのKarlsruhe Universityに出張し、スロータダイク氏と面会する予定である。その際にも多額の旅費が見込まれる。 また、本年度に新たなリサーチ・アシスタントを雇用することも、昨年以上に本年度の研究費が必要となる要因である。初年度(2012年)を通して痛感したのは、資料収集、翻訳、通訳など、様々な機会に出会った言語的障壁であった。そのため、本年度には本報告者が指導する大学院生(越川瑛理)を新たにリサーチ・アシスタントとして雇用し、主に言語的サポートを依頼する予定である。本研究のアシスタントとして得られる経験が、彼女自身のこれからの研究において有意義なものとなることは疑いないであろう。 最後に貴重資料の収集である。資料の収集と分析を基盤とする本研究においては多額の資料費が必要となる。さらに、本研究が必要とする貴重資料のなかには購入の困難なものもあり、それにもまた多額の費用と時間が必要となることが見込まれる。
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Research Products
(7 results)