2013 Fiscal Year Research-status Report
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24520336
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
ヘーゼルハウス ヘラト 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (40375382)
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Keywords | 福島原発事故 / 現代西洋哲学・文学 / 倫理 |
Research Abstract |
本年度の主要な成果は、第一にスロータダイクの提起する「Anthropotechnics」という概念の分析・理解を進めたことにある。また、それとともに、東日本大震災を契機とする、2011年の連鎖的災害を主題とした文学やノンフィクションを研究する国内外の研究者と実り多い情報交流や意見交換を進めることができたのも、本年度の大きな成果である。具体的に述べれば、国際比較文学会(於:パリ)における木村朗子との、そしてアンスティチュ・フランセ東京におけるMichael Ferrierとの対話は、「自然災害と予防」をめぐってどのような社会的・文化的反応があったのか、本報告者により包括的・多角的な視点を与えてくれるものであった。また、6月には、本報告者の指導学生である井上百子が、ノーベル賞作家のエルフリーデ・イェリネクの諸作品に関して――福島の原発事故を題材とした最新作を含めた――博士論文を筑波大学大学院文芸・言語専攻に提出し、翌年3月に同専攻の最優秀論文賞を受賞した。また、本報告者は、筑波大学大学院(文芸・言語専攻・国際地域研究専攻)において、日独比較文学に関する三つの授業を担当し、「フクシマ」と、スロータダイクとモーリス・ブランショの「disaster」概念についての講義を行った。「disaster」「catastrophe」「apocalypse」の定義と概念を再検討する作業は、Anthropotechnicsの生成過程に関連する文化的・哲学的・倫理的言説を分析することに主眼をおいた本年度の中心的な課題でもあった。また、2012年度に開始した免疫学に関する調査も継続しており、そのなかで重要な知見を得ることもできた。さらに、これらすべての作業の成果として、本年度は四つの論文を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度には、自然科学・政治学・哲学における免疫学に関する言説の整理・分析を継続して行った。免疫学は、Anthropotechnicsという概念が立脚する重要な基盤であり、本年度は免疫学とAnthropotechnicsの双方に関する新たな知見を得るだけでなく、スロータダイクが免疫学を精査するなかで、いかにしてAnthropotechnicsという独自の概念を精錬していったのか、その生成過程についても新しい発見をすることができた。そのなかでも特に重要であるのは、スロータダイクが社会学者のニコラス・ルーマンを批判的に利用している点であった。その他にも、本年度はDの国際的で今日的な意義を様々な角度から浮き彫りにすることができた。それにあたって、パリのパスツール研究所への調査訪問(2013年7月)が大きな手掛かりとなったことも付言しておく。 さらに、Anthropotechnicsが生成される過程で参照された文化的・哲学的・倫理的言説を明らかにすることで、「災害」「カタストロフィ」「黙示」という西洋的概念もあわせて再検証することができた点、そして、これら概念がいかにしてモーリス・ブランショ、ジャック・デリダ、ペーター・スロータダイクなど高名な哲学者たちによって用いられてきたのか分析することができた点も、本年度の大きな成果であった。また研究代表者が日本独文学会(2012年11月)で主催したシンポジウムは非常に説得的で影響力の強いものであったため、2014に刊行予定の同会の会誌では「災害」に関する特集が組まれ、研究代表者が本テーマにまつわる基礎的な論文を提供した。
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Strategy for Future Research Activity |
IGALA(International Gender And Language Association)に参加し、「フクシマ」と自然災害のジェンダー化された言説に関してパネル発表を行う。そのため、研究代表者は現在、スロータダイクとイェリネクがいかにしてジェンダー化された言説を利用/批判しているのか研究を進めている。「災害と予防」に関して、ジェンダーや「ローカル/グローバル」という観点から考察する上記の作業は、Dにおけるレトリック・概念の分析という2014年度の計画と密接に関連するものである。 また、スロータダイクの思索の中核をなす免疫学に関しては、2014年度も分析を続行する予定である。さらに、免疫学は全世界的に普及した概念であるため、他の文化的・哲学的・倫理的概念と絡めて分析する必要がある。こうした複合的作業は、グローバルな言説とローカルな言説(国際的/西洋的・ドイツ的)がいかにしてDのなかで相互に絡み合いながら、テクストの基底をなしているのか明らかにする一助ともなるであろう。 また、こうした研究の成果は、パリのソルボンヌ大学で開催されるシンポジウムでも発表する機会を設けたいと考えている。ただし、そのうえで、欠くことができないのは日本人研究者からの助力である。なぜなら、本研究を遂行するにあたっては膨大な数の日本語資料を収集・分析する必要があるからである。なお、本年度には本科研プロジェクトと関係する五つの授業を筑波大学で担当する。そのなかで主題として取り上げるのは、「古代と近代におけるレトリック」「悲劇の作劇」「災害の映画的演出」などである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度分として151,987円が残っている。その理由は以下の二つである。 (1)ペーター・スロータダイク教授の招聘が実現しなかったこと。本報告者は日本人研究者とともにスロータダイク教授の日本での講演を計画していたが、スロータダイク教授が高齢のため、健康上の理由から招聘講演が実現できなかった。 (2)勤務校での耐震工事。2011年の震災後、筑波大学では研究棟の耐震工事が決定したため、本年度は研究室を使用することができなかった。そのため、物品(書籍・棚・電子機器など)を収蔵するスペースが確保することができず、購入の見送りを余儀なくされた。 2014年度は、本来の研究室を使用することができるので、2013年の残額である151,987円を用いて、現在購入予定であった物品の購入手続きを随時進めている。 研究代表者の日本語能力の関係から、本プロジェクトの遂行にあたっては日本人リサーチアシスタントの助力が不可欠である。2014年度のリサーチアシスタントとしては、本研究者が所属する文芸・言語専攻の大学院生であり、指導学生でもある越川瑛理と森林駿介を予定している。その他の大学院生に関しても、必要があればリサーチアシスタントとして雇用する。こうしたリサーチアシスタントの起用は、本プロジェクトの効率的な進行を促すとともに、大学院生が調査に必要な知識や方法、手続きを習得するための、教育的効果も併せて企図している。
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Research Products
(5 results)