2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520354
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
シュペヒト テレーザ 大阪大学, 文学研究科, 講師 (40622519)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ドイツ文学 / クルド文学 / 移民文学 / 国際情報交換 / 国際研究者交流 |
Research Abstract |
平成24年度の研究は、平成25年2月と3月に行ったフィールドワークを円滑にすすめるためのものであった。フィールドワークをすすめるにあたり、クルド系の移民作家(とりわけドイツヘの移民作家)のリストを作成、それぞれの作家の作品のリストを作成するとともに包括的な作品リストも準備してきた。可能な限り包括的なリストを作成することが、今後、実際上の地理的境界を超えて、クルド系移民作家の文学的(文体的・テーマ的)な特徴を探る上で必要となる。クルド移民作家の作品から、”クルド的”な要素やテーマを読み取ってしまうことは、安易なアプローチと言わざるをえない。とりわけクルド人が現在のトルコにおいてマイノリティーであり、クルド的なアイデンティティーを惹起するような表現を表立ってできないこともまたクルド系移民文学を理解する上で大きな支障である。それゆえ本年度は、現在のクルド人が現在のトルコにおいておかれている政治的な状況を確認し、また作家たちがどのようなスタンスをとっているのかを、印刷物の形ではなく、”直接に”聴くための機会が重要であると考えている。平成24年度のフィールドワークでは、トルコ在住にクルド人作家たちの声を直接に聴くことができた。また文学作品を理解する上で、作家たちがそだった風土や景観について熟知しておくこともまた重要であるが、このような点からも本フィールドワークは有意義なものであった。また今回のフィールドワークを通じて得られた最大の成果は、作家自身とのコンタクトをとることができたことである。移民文学作家を研究するにあたり、作家自身の証言はなにもりも重要な資料である。今回築いたこの関係を維持し、いままでできなかったクルド系移民作家についての実証的な研究を進めることができると期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドイツ文学研究の枠内で、クルド系移民作家の研究はほとんどおこなわれてこなかったといってよい。その意味で本研究は、研究の穴をうめ、さらなる研究を促進するための基礎研究である。また本研究ではクルド系移民作家について、その政治的スタンスまたは政治的バックグラウンドの鳥瞰図を提示することにもある。本年度については、とりわけクルド人移民作家が母国と移民先の間で、どのようなアイデンティティーを獲得するにいたったのかについて焦点をしぼって研究を続けてきた。本年度の達成点は大きく3点にまとめることができる。第1点は、クルド人移民作家の作品には、本国トルコにおけるマイノリティーとしての抑圧の経験が色濃く反映されているということ。第2点は、クルド人を理解するために例えば、クルド人の歴史というものについて調査をしてみると、そのような形での研究や書物は皆無であること。つまりクルド人は、他の民族のように自らの歴史を編むという試みをこれまで実践することができずにいた。第3点は、上記のような理由から、クルド人移民作家の作品では、作家自らが自らのアイデンティティーを模索するのと同時に、これまで語られることのなかったクルド人の集団的な記憶を編む試みでもあるということ。これまでドイツにおいて移民文学についておこなわれた研究として、2011年にフランクフルトで開催された『文学と移住』があるが本研究は、この2011年段階で言及されることのなかったクルド人作家についての研究として位置づけられる。クルド人の集団的記憶、文化的記憶という観点から、クルド人作家の作品の位置づけを試みた平成24年度の研究成果は、平成25年5月に開催される日本独文学会において発表することが決定している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、平成24年度におこなったフィールドワークによって得られた成果を、理論的な昇華することにあてられる。とりわけ移民文学のなかでも、クルド人作家の特異性をどのようにとりだすのか、そのための理論的な枠組みをつくりあげることに着手することになる。その際、まずはドイツで研究の蓄積のあるトルコ人作家研究をひとつの模範とすることになるはずである。とりわけ、次の3つの視点から研究を効果的にすすめることにしたい。1)クルド人作家の文学作品について、作品内世界と作品外世界つまり現実のクルド人社会との関連をどこまでつきあわせることが可能なのか。2)クルド人作家が作品を創作する際に、民俗的な、または文化的な集合的アイデンティティーというものの働きがどの程度影響をあたえているのか。3)クルド人作家は、作品のなかでどのような文化概念を読者に提示しようとしているのか。上記の3点に答えるために、平成24年度に実施したフィールドワークでの作家たちへのインタビューを積極的に利用する予定である。作家の声を積極的に引用することで、本研究の実証性が高まると期待している。またこのフィールドワークで築いた作家たちとのネットワークをりようし、平成25年度は、ムッシン・オムルジャ氏を日本に招き、講演会または朗読会を企画している。クルド人移民作家についての研究を、日本という場所で実施することで、当事国であるトルコやドイツではできない柔軟な研究を展開することができると期待している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
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Research Products
(1 results)