2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520363
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高木 信宏 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (20243868)
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Keywords | フランス文学 / ヨーロッパ文学 / スタンダール / 近代小説 / 異文研究 |
Research Abstract |
本年度は昨年度に引き続き、エッツェル版ならびにミシェル・レヴィ版『パルムの僧院』の異文調査をフランス国立図書館において実施し、当初の予定通りに終了した。調査結果は初版テクストとの対照表にまとめてデータ化し、これに基づいて異文の分析と考察に入っている。現在までに明らかになっていることは、エッツェル版、レヴィ版『赤の黒』に認められる異文と、両版の『パルムの僧院』に含まれる異文ではその素性が大きく異なる点である。 前者の異文については、すでに我々が先行して行った研究によって、編者ロマン・コロンが初版テクストとの校合を行わず、恣意的な修正を加えたことに由来することが明らかになっている。つまり、本文にヴァリアントが生じたのは、テクストの校訂に際してコロンが作者スタンダールの残した修正や指示を採用したからではないのである。これに対して『パルムの僧院』の編集では、コロンが手沢本等に記された作家の修正を把握したうえで、最晩年にスタンダールが施した修正のみをテクストに反映させたというコロン自身の証言が二次資料に確認できる。 しかしながら、作家の訂正が記された資料が未発見である現状を踏まえるならば、コロンの証言を裏付ける作業は異文の分析のみとなる。問題の解明のために必要な手続きとして我々が着手しているのは、句読法の相違にもとづく分析や、修正内容と同時代社会事象の関係についての考察であり、これら新たな視角から検討をくわえることで、コロン証言の信憑性を判断し、さらにはエッツェル版、レヴィ版の校訂に用いられたとされる訂正稿について独自の仮説を提出できるものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、19世紀フランスの作家スタンダールの死後、その遺言執行者ロマン・コロンによって刊行されたエッツェル版、ミシェル・レヴィ版作品集収録の『パルムの僧院』『アルマンス』『カストロの尼』を研究の対象として、それらのテクストに含まれる異文を調査し、いかなる経緯で本文の異同が生じたのかという問題の解明を目的とする。本年度は昨年度に引き続き、『パルムの僧院』のエッツェル版(1845年刊)ならびにレヴィ版(1853年刊)に含まれる異文の調査をフランス国立図書館(アルスナル図書館)において実施し、当初の研究計画どおりに作業を終了した。さらに調査結果を初版テクストとの対照表にまとめてデータ化し、これに基づく異文の分析と考察に移ることができた。以上の進捗状況を踏まえて、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、前年度までに得られた調査結果に基づき、『パルムの僧院』のエッツェル版、レヴィ版テクストに含まれる異文の分析作業を行い、その成果を学術論文にまとめて公表することを目指す。なお、考察にあたって検討のポイントとなるのは以下の手続きである。『パルムの僧院』手沢本(ロワイエ本、シャペール本等)に残された修正とエッツェル版、レヴィ版の異文との比較、20世紀以降に刊行された批評校訂版収録の異文との照合、従来の研究において等閑視されてきた句読法の分析、異文の内容と同時代フランスの歴史的・社会的事象との関係についての考察、エッツェル、レヴィ両版の異文に関する先行研究の批判的な検討などである。 これらの検証結果を、今日までに集積された同小説に関する知見と総合することで、小説家の遺言執行人であり親友でもあったロマン・コロンが両版の編集においてどう異文にかかわったのかという問題、すなわちスタンダールの意図を反映した修正なのか、それともコロンの独断による改変なのかという問題について、なにがしかの説得的な仮説を提出したい。さらにこれらの作業と並行して、『アルマンス』についての異文の調査をフランス国立図書館において実施する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じた主たる理由としては、まず予定した渡仏調査期間の航空運賃が予測よりも大幅に下回ったこと、ついで所属機関の本務との兼ね合いから、フランスでの渡仏調査を当初の研究計画で見込んだ期間よりも若干短縮して実施せざるをえなかったことが挙げられる。 平成26年度の使用計画としては、当初予定の直接経費配分額90万円に次年度使用額207,696円を合算した額、1,107,696円を使用額として予算に計上する。その内訳は、まず「物品費」として関連文献・資料ならびにデスクトップ・パソコンの購入に40万円、「消耗品費」として印刷・複写関係費やパソコン関連消耗品の購入費として10万円、残る60万円強は全額を「旅費」として渡仏調査の経費に充てる。このうちパソコンの購入は当初の計画にはなかったが、現在作業に使用しているパソコンが購入からすでに6年以上経過し、最新のOSへアップデートできないため、故障等の不測の事態に備えて計上した次第である。
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Research Products
(2 results)