2014 Fiscal Year Research-status Report
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24520363
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高木 信宏 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (20243868)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | フランス文学 / ヨーロッパ文学 / スタンダール / 近代小説 / 異文研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は『パルムの僧院』に関してフランス国立図書館ならびに国立アルスナル図書館において実施してきた異文調査の結果を取りまとめ,その分析・考察の作業を行った。1839年3月に刊行された初版のテクスト,スタンダールの3種の手沢本(シャペール本,ロワイエ本,ランゲー=アザール本)に書き込まれたヴァリアント,そしてロマン・コロンの校訂したエッツェル版およびミシェル・レヴィ版に含まれる異文,これらを比較・対照することで作家による修正の軌跡について仮説を立て,さらに関連する書簡や備忘等の再検証を通じて仮説を裏づける手続きをとった。 まず初版テクスト,自家用本の修正,コロン版の異文をそれぞれ照らし合わせて考察すると,後者の大半がシャペール本に加えられた訂正をさらに推敲した内容となっており,時系列的に見て,手沢本のヴァリアントよりも後にスタンダール自身が行った修正であると推定するに至った。シャペール本の訂正に打たれた最期の日付が1842年1月23日なので,コロン版の異文はこれ以降の修正と考えられるのである。 従来,コロン版『パルムの僧院』の異文をとりあげた先行研究においては,スタンダールがコロンに宛てた1840年5月20日付の手紙を根拠にして,同書簡中で言及される訂正が問題の異文の源泉であると考えられてきた。しかしながら先行研究では,問題の解明につながる重要な新資料,すなわちコロンの1846年1月31日付バルザック宛書簡が見逃されていたことが,このたびの研究によって新たに判明した(ちなみにこの書簡が公表されたのは1996年である)。同書簡中でコロンは,スタンダールが他界する25日前,つまり1842年2月26日に行った訂正のみをエッツェル版の本文に採り入れたと明言しており,この証言をもってコロン版の異文に関する我々の仮説を立証することができたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に述べた本年度の研究成果は,従来の定説に修正を迫る知見であり,スタンダールによる『パルムの僧院』の修正過程を対象とする研究にとっても新たな視角をもたらすものと考えられる。その意味で本研究の目的は当初の計画以上に達成されたと言えよう。 本研究成果の内容についてはすでに学術論文にまとめ,九州大学フランス語フランス文学研究会『ステラ』第33号誌上で公表するとともに,その一部を国際スタンダール研究誌『HB』第19号でも発表している。 また上記の研究に並行して着手した『アルマンス』と『カストロの尼』の異文調査についても,現在までのところ作業は滞りなく進展しており,最終年度中に予定通り研究を完遂する見通しも立っている。 以上を踏まえて,本年度の研究は「当初の計画以上に進展している」と考える次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度にあたる平成27年度は,前年度に着手したコロン版『アルマンス』と『カストロの尼』の異文調査を完了し,調査結果にもとづいてそれぞれの校訂の実態について考察を試みることになる。これによって得られる知見は,先行する『赤と黒』と『パルムの僧院』の異文に関する研究成果と整理・総合する形で学術論文にまとめることで,本研究課題に関する具体的かつ実質的な概観の提示を目指す。 以上の目標を達成するために,国立フランス図書館,国立アルスナル図書館等にて異文の調査と関連資料の収集の作業を補完的に行い,遺漏なき基礎データの完成に努める予定だが,このことは当初の研究計画といささかも齟齬はなく,最終年度において渡仏調査に研究費を多く割くことも予定していた通りである。 なお,研究の成果については,所属する研究機関の紀要ないしは関連する国内外の研究組織が発行する学術誌等に投稿することで,その意義を社会に問う予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は不測の事態により研究の遂行が計画通りに出来なかったためでは決してない。渡仏調査費を計上するうえで見積もった為替相場と渡航時点での為替相場との相違や国際便の航空運賃の変動などの影響により,実際の支出が若干低く抑えられたことによる。つまり流動的・市場的な要素が次年度使用額の生じた主たる要因として考えられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額となった35,726円という額は研究費使用計画において想定される誤差の範囲内であり,次年度の研究計画ならびに研究費使用計画に大幅な変更を強いるものではない。したがって次年度使用額35,726円は,渡仏調査費の一部に算入することで問題なく使用することができると考える。
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Research Products
(3 results)