2012 Fiscal Year Research-status Report
異文化接触から読み解くフランス・ルネサンス文学―異界の創造と他者性の言語
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24520372
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
平野 隆文 立教大学, 文学部, 教授 (00286220)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | フランス |
Research Abstract |
フランス・ルネサンス文学の中でも今年はラブレー、マルグリット・ド・ナヴァール、モンテーニュを中心とした散文作品を対象にしながら、驚異的な異界が、いかなる力学的偏向を作品に加えているかを考察した。例えば、ラブレー『パンタグリュエル』の序詞(前口上)が、騎士道物語、逆説的礼賛、商業主義的出版事情、異文化としての民衆文化と書斎文化、民間伝承、学校化社会等々の、当時の文学の「外部」に位置する他者に、大きな変形圧力を加えられ、だからこそ、それまでに存在しえなかった異界としての文学へと結実している課程を詳密に分析した。マルグリットの『エプタメロン』に果たした、「外在」としての暴力や宗教的熱情、あるいは、モンテーニュの懐疑主義と交錯するルポルタージュという新鮮な手法などについても、相当説得力ある議論を展開できた筈である。さらに、聖体拝領論という、時代を染め上げた問題系が、言語学上の異質な問題を吸引しつつ、宗教的犠牲論に新たな視点を加えた点も明らかにできた。 また、フランス国立図書館で、ヴィルガニョン、ヴェルヴィル、ショーヴトンなどのマイナーな旅行記に関する調査も行い、「カンニバル」や「新大陸」との異文化接触が、文明と野蛮、裸と衣服ないし化粧、木の文化と鉄の文化、等々の、文化的衝突を引き起こし、それが西欧の自己相対化の磁力線を文学全般に持ち込んだ点をも明らかにできたと自負している。さらに、「カンニバル」との接触が、聖体拝領へと隣接していく課程や、新大陸での暴力行為が、宗教戦争時の暴力描写と裏腹の関係を結ぶ点なども、かなり明確にすることができた。以上の通り、フランスでの文献収集と、日本での文献解読とを有効に組み合わせ、異界との交通が、文学的独創にとって不可欠な要素であった事実を明るみに出せたと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「新大陸」をキーワードに、「聖体拝領論」や「文化的相対主義」について、旅行記やモンテーニュの著作を細かく分析できた。これは、「根源的に未知なる他者や疎外因との接触を介して」、ルネサンス期の広義の文学が成立した中でも、最も典型的なケースを例示するに適切な当初の目的に適っている。また、「暴力描写の異常なほどの他者性」に力点を置き、それが、自己喧伝と一体化したプロパガンダ文学を生んだ点、および、ラブレーに典型的に見られるような、料理や悪戯としての喜劇的暴力を創出した点を明らかにし、ルネサンス文学が前代未聞の驚倒的世界を、言い換えれば、内部で自己完結しない豊穣な世界を、動態的に描き出した点も明確に示し得た。これも、当初の研究目的にぴったり重なる視点である。さらに、ルネサンス前期の散文作家に於ける異界の創造に焦点を絞った分析も、ラブレーやマルグリット・ド・ナヴァールを対象として実践し、現世の異様な悲惨が、宗教的背景を醸成する上で大きな役割を果たしたこと、あるいは、オデュッセウスなどの古典古代の英雄が、他者として物語空間に逆説的模倣の圧力を掛けている点なども明らかにし得たが、これも当初の目的に据えた内容と一致している。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度もフランス国立図書館での調査を予定しているが、今回調べ残したブリーや、ショーヴトンなどの旅行記を中心に据えて、ルネサンス期の世界把握を貫いている、外部と内部との緩衝の問題について扱いたい。そのために、さらに細かい、かつマイナーな文献のマイクロフィッシュを入手すると同時に、この問題系を扱った基礎的文献をも調えたいと考えている。さらに、旅行記という他者との究極的な出会いが、それまでにない、モンテーニュのごときしなやかな感性を育てた、その生成過程にも迫らねばならない。旅行記に残存するヨーロッパ的価値観が、却って、自文化への懐疑を育んだ課程にも分析のメスを入れねばなるまい。そうした研究は、おそらくは、異文化の中の音楽や芸術作品、さらには風景との出会いと大きく関連している筈である。社会的、政治的、宗教的な異質性のみならず、こうした感性の異質性と同質性とを巡る分析も重要なテーマで、それを探るに相応しい文献を収集する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
フランス国立図書館への10日間の出張(文献収集のため)に、おおよそ35万円程度を使用したい。マイクロフィッシュの入手代金は物品費から支出する予定である。また、上記の通り、多岐に亘る主題を扱うため、特に優れた研究書を多く収容している Travaux d'Humanisme et Renaissance シリーズや、Champion 社が刊行している Texte de la Renaissance シリーズなど、優れた高価な書籍の購入に物品費の多くを充てる予定なので、70万円~75万円を物品費に計上して使用したい。また、入手した新文献や新資料の内容を整理する上で、大学院生のアルバイトを予定したいので、時間に応じた額を準備しておきたい。フランス国立図書館との連絡などに、若干の通信費などが必要になる可能性は高い。ただし、コンピューターなどは既に購入済みであり、新たに入手する必要は特にないと思われる。なお繰越金は、洋書価格が2012年上半期の円高で下がったために生じたもので、これを、次年度の物品費に繰り込みたいと考えている。
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