2012 Fiscal Year Research-status Report
ベケット作品/草稿におけるテクストと図:ライプニッツ的組み合わせ術と存在論の研究
Project/Area Number |
24520378
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kobe Women's University |
Principal Investigator |
森 尚也 神戸女子大学, 文学部, 教授 (80166363)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ベケット / ライプニッツ / 微小表象 / 形而上学 / テクストと図 |
Research Abstract |
ベケットとライプニッツの比較研究として論文を4点出版。若きベケットの思想形成期においていかにライプニッツの形而上学が、自らの芸術の指針となっていたか、また生の指針でもあったかを、手紙や日記から浮き彫りにしたもの。今後の両者の比較思想の基礎研究としての位置づけである。 ベケットがライプニッツの「微小表象」という無意識下の知覚作用をいかに創作に取り込んだかについて、1930年代の「哲学ノート」(トリニティ・カレッジ・ダブリン、バークリー図書館所蔵)における「微小表象」のメモを参照。さらに、それが小説『マロウンは死ぬ』においていかに応用されているかを検証した(『ライプニッツ研究第2号』に掲載)。次に、『マロウンは死ぬ』だけでなく、初期小説『初恋』も分析対象に入れて、ベケットがライプニッツの「微小表象」を応用した背景には、ライプニッツ批判が含まれていることについて論じた(Samuel Beckett Today/ Aujourd'hui, vol. 24)。これら二点の論文は、ベケットが単に1930年代において、ヴィンデルバントの哲学史を通して、ライプニッツ形而上学に興味を示したことの事実確認だけでなく、後の作家生活においてそれを具体的に作品に応用していることを検証したものである。 「現代文学から見たライプニッツーサミュエル・ベケットの形而上学批判」は、今回の科研費研究の主題の序論となるもの。1940年代の小説『ワット』を題材に、ベケットが順列組み合わせをテクスト構成に全面的に取り込んだことを草稿にも言及しつつ論じた。さらにその意図には、あらゆる存在が運動のもとにあり、その順番は予定調和的に予め決められているというライプニッツ形而上学の批判であることを指摘。「テクストと図」の関係が、個の視点と全知の視点を表していることを、『ワット』だけでなく、他の作品についても今後追求していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでの草稿研究が少しずつ成果を結びつつあり、順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
ベケットとライプニッツを中心に比較思想研究を継続していく。周辺のスウィフトやディドローやプルーストなどにもライプニッツの影響が及んでおり、ベケットが彼らを通して間接的にライプニッツ形而上学に触れているらしいことも見えてきたので、可能な範囲で、こうした周辺にも目をやりつつ、両者の関係を補強していくことが必要だろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
トリニティ・カレッジ・ダブリンでベケットの草稿研究を続ける。その際、国際ベケット学会がダブリンで開かれるので、研究の一端を英語論文にまとめ、発表する予定。したがって研究費の主な使用目的は、渡航費・滞在費である。
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Research Products
(5 results)