2013 Fiscal Year Research-status Report
現代中東文学における「ワタン(祖国)」表象とその分析
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24520393
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡 真理 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (30315965)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 佳世子 東京外国語大学, その他部局等, 教授 (30208615)
藤元 優子 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (40152590)
勝田 茂 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (90252733)
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Keywords | 文学 / 中東 / 祖国 / 表象 / イスラーム / 異郷 / 亡命 |
Research Abstract |
本研究は、トルコ文学、イラン文学といった従来的な一国文学、ないし「アラブ文学」といった一言語地域文学の枠を超え、広く「中東現代文学」という視野に立ち、「ワタン(祖国)」との連関から中東地域の人間と社会、その近現代史を考察することを主眼としている。2年目の本年度は、初年度の成果を踏まえ、中東現代文学における種々の「ワタン」表象をとりあげ、議論を深める作業に重点を置いた。 まず、本年度も2日にわたる研究会を年2回開催(6月、1月)。第1回研究会では、昨年度末刊行の『中東現代文学選2012』をテクストに、中東諸地域の多様な作家、作品についてメンバー全員で検討、中東現代文学作品における「ワタン」表象がいかなるものであるかをプロジェクトに携わるメンバーで共有し、今後、それらを具体的に分析していくための基盤とした。 これを受け、第2回研究会では2日間にわたり5本の研究発表を行った。革命期のイラン詩人、トルコのクルド人作家、イスラエルのパレスチナ人作家、イスラエルのアラブ系ユダヤ人作家、フランスのアルジェリア移民という多様な社会・言語・歴史的背景の作家・作品について、その「ワタン」表象を分析・考察する報告がなされ、それぞれの差異とともに、国や歴史を縦横に貫く共通点を明らかにした。 さらに本年度は、イラン映画に焦点を当てた公開講演会「イラン映画の詩学――現代文学の視点から」も開催(6月、明治大学)。研究成果の社会還元の一環であるとともに、文学と映画の関係、映像の詩学についての知見を得る貴重な機会となった。また11月にはポーランド出身のユダヤ人作家エヴァ・ホフマン氏の講演会「人間にとって祖国とは何か」を開催(京都大学)。同氏は中東出身者ではないが、祖国を追放され異邦に生きる同氏の経験は、「異郷性」を主要なテーマの一つとする中東の「ワタン文学」理解の上で多くの示唆に富むものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、国内の中東現代文学研究者十数名が参加する、年2回の研究会を開催。特に今年度は、昨年度の成果である『中東現代文学選2012』という研究の基盤となるテクストができたことで、具体的な考察・分析を進展させる大きな駆動力となった。これにより、第2回研究会で、個別具体的な作家・作品における「ワタン」表象に焦点を絞った密度の濃い研究発表が可能になった。年度末には、研究会メンバー各人が、「ワタン」をテーマにした研究論文のタイトル案を提出するに至っている。 また本年度も、中東現代文学をテーマに公開シンポジウムが開催できたことは、プロジェクト・メンバーが言語や地域を越えて中東現代文学に関する知見と理解を深める上でも、また研究成果の社会還元という点でも、大きな意義を有することであった。 さらに「ワタン(祖国)」をテーマに、エヴァ・ホフマン氏の講演会を開催できたことも、異なる角度から「祖国」の意味について考察を深める貴重な契機となった。 最後に、本研究会に触発され、研究会に参加しているクルド文学研究者らが、クルド文学研究会を立ち上げたことも、本プロジェクトの成果であると言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度同様、来年度も年2回研究会を開催し、中東現代文学における多様な作家・作品をとりあげ、その「ワタン(祖国)」表象について、さらに詳細な分析を行う。 プロジェクト最終年度となる来年度は、中東の作家および/ないし文学研究者を日本に招聘し、中東現代文学と「ワタン(祖国)」について講演会等を開催し、その知見・研究成果を共有する。 プロジェクト成果として『中東現代文学における「ワタン(祖国)」(仮題)の刊行を目指して、各自、それぞれのテーマで研究論文を仕上げる(刊行のための助成金の獲得が大きな課題である)。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年2回開催の研究会のうち1回を昨年度は京都で開催したが、今年度は在住者の多い東京開催としたため、その分の旅費が余ることになった。 最終年度である次年度は、年2回の研究会および一般向け公開講演会とは別に、海外在住の中東現代文学の作家及び/ないし研究者を日本に招聘し、講演会等を開催の予定であり、その旅費および講演会開催費等に充当する。
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Research Products
(9 results)