2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520433
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
熊本 千明 佐賀大学, 文化教育学部, 教授 (10153355)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 焦点 / 情報構造 / 提示文 / 倒置構文 / 分裂文 / 変項名詞句 / 指定文 / 同定文 |
Research Abstract |
本年度は、英語の分裂文を中心に分析を行った。分裂文における代名詞it/thatの指示性に関するHedberg(2000)、Birner, Kaplan and Ward (2007)、Mikkelsen (2005)の議論が不十分であることを指摘し、分裂文におけるit/thatの用法を解明するためには、西山(2003)の「変項名詞句」の概念を援用する必要があることを示した。 Hedbergは、Gundel et al.(1993)が提案する談話内の情報のgivenessの階層性に基づいて、分裂文の主語代名詞it/thatの類似点、相違点を論じるが、「指示性」の特徴づけが明らかではない。Birner, Kaplan and Wardは、単純なequatives、TWBX 構文(that would be X)との比較においてthat 分裂文を論じ、文脈中に際立つOP (open proposition)がある場合、that は「変項の例示」を指示すると主張するが、この「変項の例示」の概念が明確に規定されていない。また、it分裂文との比較検討も不十分である。Mikkelsen は、it/that分裂文の主語代名詞は叙述的な性質をもち、非指示的であると主張するが、これでは指定文の主語名詞句と措定文の述語名詞句の性質の違いを捉えることができない。 本研究では、it分裂文と異なり、いわゆる「入れ代りの読み」が不可能であることから、that分裂文は変項を埋める値を指定するのではなく、既に指定された値の同一性を確認する機能をもつことを示した。これまでの研究成果をまとめ、国際学会(5th Brno Conference on Linguistic Studies in English) において発表した。また、itの非指示性に関して、『名詞句の世界』の一節を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は日本語のハ分裂文とガ分裂文を、指定のコピュラ文、同定のコピュラ文と比較し、類似点、相違点を探ることを計画していた。また、ガ分裂文の中でも提示機能が明らかなものとそうでないものを分類し、英語の倒置構文との比較を行う予定であった。しかしながら、it分裂文とthat 分裂文に関して、非常に興味深い用例が見つかったため、英語の分裂文についての研究を中心に行うこととなった。その結果、分裂文に現れる代名詞の特性について、上記のような知見を得ることができた。また予定通りに研究成果を国際学会で発表し、議論を深めることができた。このように、予定されていた方向とは異なる進展があったという点では、計画通りではなかったことになるが、翌年以降に計画されていた内容を先取りして検討できたことは、今後の研究を容易にするものであり、焦点化構文全般の解明を支えるものとなるという点で、達成度は十分であったと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度からは、前年度の研究の総括を行った上で、次の作業を行う。 (1) インフォーマントを活用してデータを充実させ、さらに深くit分裂文とthat分裂文の類似点、相違点を考察する。日本語の例とも対比させ、文中の各要素の意味機能を解明する。 (2) Hedberg (2000)で論じられたtruncated cleftsとit分裂文、that分裂文の関係について、両者を指定のコピュラ文、同定のコピュラ文との比較において考察することにより、その正当性を検証する。 (3) it分裂文、WH分裂文、that分裂文、倒置構文の分析に際して援用される、変項を含む ‘open proposition’ (Prince 1986, Birner and Ward 1998)の概念と、西山(2003) が提唱する「変項名詞句」の概念を比較し、それぞれの説明力を検討する。変項名詞句の概念の発展性について、明海大学の西山佑司教授、慶應義塾大学の小屋樹教授を招き研究会を開いて、討論を行う。 (4) 提示機能をもつ日本語のガ分裂文と英語の倒置構文、指定の機能をもつ日本語のハ分裂文と英語のit分裂文、WH分裂文を比較し、本質的な機能の相違を解明する。 (5)「焦点」の概念の明確化をはかる。分裂文と提示文における焦点の概念はいかに規定されるべきか、「際立ち」 「強調」「前景」「新情報」「断定」「値」等の概念はどのように整理することが可能か、文献資料を整理して、検討を加える。 (6) 研究の成果を日本言語学会、日本語用論学会、国際学会等で発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1) 焦点化構文に関連する分野の文献をそろえるため、言語学関係の図書を購入。80千円 (2) 研究の遂行に必要な消耗品を購入。10千円 (3) 研究成果を発表するため、国内へ出張。70千円 (4) 研究者を招聘し、研究会を開催。150千円 (5) 研究成果を発表するため、海外へ出張。330千円 (6)インフォーマントへの謝礼。20千円 合計660千円
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