2013 Fiscal Year Research-status Report
調音動作の組織化と言語使用に関する理論的・実証的研究
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24520439
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
中村 光宏 日本大学, 経済学部, 教授 (10256787)
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Keywords | 音声学 / 言語学 / 調音動作 / 言語使用 / 発音変異 |
Research Abstract |
母音間における歯茎側面接近音の調音動作と、単語末のt/d削除における舌尖動作の弱化と調音動作の重複について,観測と分析を実施した。 母音間の英語Lは両音節性(尾子音であると同時に,後続語の頭子音でもある)をもつと仮定される。本予備的分析は、音節末Lにおける「舌背上昇の後に舌尖上昇が実現される」という特徴に関連して、中間的タイミング仮説(尾子音と頭子音の中間的特徴をもつ)と尾子音タイミング仮説(舌背は尾子音Lの調音タイミングを維持し、舌尖は後続語の頭子音として機能する)の検証という最終目標を念頭においている。その結果、弱母音が後続する時(fail as)は音節末の特徴を示し、強母音が後続する時(fell out)は舌尖調音が舌背調音と同時に起こることが分かった。この特徴は、音節主音的Lに弱母音が後続する時(table in)と強母音が後続する時(musical instrument)には観察されなかった。調音動作の制御と強勢・音節性との関係を詳細に分析・検討することが今後の課題である。 単語末のt/d削除に関する先行研究では、聴覚印象に基づいてその有無が判断されていた。このデータ収集方法は、/t,d/の実態を十分に捉えられないという欠点がある。本分析では、調音音響データから舌尖調音を分類し、調音動作の弱化と音韻的・形態的要因、個人差、頻度の関係を検討した。主な結果は次の5点である:①t/d削除の音韻環境では歯茎部閉鎖が不完全になる傾向がある、②後続音では閉鎖音と摩擦音、先行音では歯擦音が最も強い条件である、③調音動作の重複(gestural hiding)は常に生じるわけではない、④舌尖調音の弱化の度合いには個人差がある、⑤単語頻度は有意ではない。このような結果から、調音音韻論が提案する「調音動作の時間的短縮と大きさの減少」による説明に対して、用法基盤モデルに基づき、単語末の/t,d/が複数の音韻表示をもつという仮説を導出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画の主要な課題は、前年度に得られた予備的調査結果に基づき、英語Lの母音化と単語末のt/d削除について、より多くのデータを集積し、仮説検証を遂行することであった。英語Lの母音化の分析では、関連する重要な現象である母音間Lの両音節性に焦点を当てた予備的調査を実施した。この調査によって、強勢と音節性が深く関係することが判明し、母音化を阻止する条件の検討に加えて、両音節性自体の調音的特徴を解明するための基盤をつくることができた。単語末のt/d削除の分析では、調音動作の観測と統計的解析に基づき、(単語頻度ではなく)音韻環境によって舌尖調音の弱化の程度が有意に異なることを明らかにした。t/d削除の調査・分析結果は国際学会で報告し、その一部である「調音動作の重複」に焦点を当てた研究論文は、平成25年度中に刊行された学会誌『英語音声学』の掲載論文となった。このような状況から本年度の課題は達成できたと判断できる。また、t/d削除の条件を総合的に論じた研究論文「Conditioning Factors in Word-final Coronal Stop Deletion in British English: an Articulatory-acoustic analysis」が、国際学会Phonetik & Phonologie 9編集の論文集に受理され現在校正段階にあり、平成26年度中に刊行される予定である。 来年度は、英語Lを分析対象として両音節性を詳細に調査分析し、調音動作の組織化と強勢・音節性との関係を検討する計画である。これに加えて、本年度に分析対象とした音声・音韻現象とは別の現象についての調査・分析も実施し、分析対象の拡大を図る計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度に得られた調査・分析結果に基づき、次の①から③を中心として調査・分析・仮説検証を遂行する。①単語の出現頻度と音声変異の出現頻度:調音・音響的特徴と使用頻度の分析を行う。②音韻環境の相対的頻度と音声変異:音韻的要因の強弱・階層関係を,ロジスティック回帰分析によりモデル化する。③調音動作の弱化の実態と頻度効果を明らかにすることを試みる。これら3点は、本研究課題の調査・分析に関わる基本的な事柄であるため、前年度より継続しているものである。 平成26年度は、英語Lを分析対象として両音節性を詳細に調査分析し、調音動作の組織化と強勢・音節性との関係を検討する計画である。t/d削除の個人差について、調音動作の制御の観点から、詳細な検討を加える計画している。これらに加えて、本年度に分析対象とした音声・音韻現象とは別の現象についての調査・分析も実施し、分析対象の拡大を図り、調音動作の組織化の観点から言語使用(発音の変動性)の考察を進める計画である。 平成26年度に得られた研究成果は、平成24年度と平成25年度に得られた成果と合わせて検討し、音声科学・音声言語処理関係の国際学会に発表申請する予定である。現段階では、開催予定が確認できる次の3つの国際学会を候補と考えている::The 43rd New Ways of Analyzing Variation (NWAV 43)(アメリカ:10月23日~26日)、The 45th Annual Meeting of the North East Linguistics Society (NELS 45)(アメリカ:10月31日~11月2日)、The 15th Australasian International Conference on Speech Science and Technology (SST 2014)(ニュージーランド:12月3日~5日)。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、研究成果の発表のために、複数の国際学会に参加することを計画していたが、国際学会における研究成果の報告は1回であった。また、国際学会における発表が不採択であった場合には、Daniel Jurafsky博士とArto Anttila博士が所属するStanford Universityへの出張を計画していたが、先方とのスケジュール調整が難しく、この出張は行われなかった。 平成26年度は本研究課題の最終年度であり、これまでの調査分析結果を総合的に検討し、新しい調査分析も加えて、研究成果の積極的な公開を考えている。平成26年度中には、本研究課題の目的に適合する複数の国際学会の開催が予定されており(詳しくは、「次年度の研究費の使用計画」を参照されたい)、それら学会への発表申請準備を現在進めている。複数の国際学会における研究成果の発表のための出張旅費として使用する計画である。
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Research Products
(3 results)