2013 Fiscal Year Research-status Report
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24520448
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐藤 知己 北海道大学, 文学研究科, 教授 (40231344)
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Keywords | アイヌ語 / 歴史言語学 / 音変化 / アクセント / 古文献 |
Research Abstract |
前年度に撮影した年代の判明している最古のアイヌ語文献「狄言葉」(1704)の本文を解読し、その用字の総索引を作成した。さらに索引によってアイヌ語表記を一つ一つ詳細に検討し、アイヌ語の歴史的な変化を証拠立てる特徴が見られないか具体的に検証した。その結果、単なる誤写では説明のできない組織的な表記上の差異が見られることが明らかとなった。とくに、現代のアイヌ語において、軟口蓋音や声門音のような口の後部で発音されたとみられる子音の後に前舌母音が連続する場合、それらの表記に「て」のようなタ行子音が用いられた例が複数みられる点が極めて注目される。この現象の解釈は複数あり得ると思われるが、この位置における子音の発音が現代とは異なっていた可能性を強く示唆するものと言える。また、現代のアイヌ語の形式には該当する音がない位置に「ん」が書かれている例があることも注目される。関連する形式は、現代のアイヌ語において子音で終わる語幹が母音で始まる語幹に合成された形式であるが、通常のアクセントパタンに従わず、第一音節にアクセントを持つ例外的形式となっている。アクセントの例外をなす語幹部分に書かれた「ん」は、アクセントの例外を引き起こす原因となったが、今日のアイヌ語では失われてしまった未知の音を表すものである可能性があるという点でアイヌ語の歴史を考える上で極めて重要な事例であると言える。これらは、今後のアイヌ語研究において重要な視点のひとつになり得ると思われる。その他、語彙的にも古いアイヌ語の層を示す可能性のある興味深い事例をいくつか含んでいることを指摘し、結果をとりまとめて論文として公表した。これらの研究と平行して引き続き各地の図書館からの資料収集作業を継続した。また、古文献のアイヌ語研究の基礎となる現代のアイヌ語についての分析も進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
収集した資料の調査研究を予定通り行い、パソコンを用いて資料の徹底的な分析を行い、新しい事実を発見し、結果を論文として発表することができた。また、同じ時代に属する可能性が高い、他の重要資料の収集も各地の博物館、図書館の協力により平行して進めることができ、さらなる包括的な研究の準備を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに複数得られている同時代の文献を、今回と同じような文字索引作成の手法によって分析し、相互比較する作業を進めたい。また、時代は若干新しいが、これまでほとんど資料の報告がない地域のアイヌ語資料も収集したので、その分析も進めていく予定である。また、以前の関連する研究で出ている結果と今回の研究とを比較して得られた結果をより体系化する作業を進める。
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