2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520463
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉田 豊 京都大学, 文学研究科, 教授 (30191620)
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Keywords | マニ教 / イラン語 / 中世イラン語 / 歴史言語学 / シルクロード / マニ教絵画 / トルファン / 霞浦文書 |
Research Abstract |
平成25年度は,本研究のテーマである日本に現存するマニ教絵画と,中華人民共和国新疆ウイグル自治区トルファンで発見される10世紀のマニ教絵画を比較した.日本にあるものは14世紀頃の中国江南で制作されたものと考えられている.両者に共通する図像に,三日月形の乗り物に乗る人物ないし神格がある.日本にある絵画の研究からそれが,マニ教の教義の中で,この世で救済された魂(マニ教では光の要素とも呼ばれる)が,光の天国に帰還するさいに乗る,光の船であることが判明する.それにより,トルファン出土の絵画断片の図像も光の船であるとすることができるが,この場合は,そこに描かれた詳細と,別にトルファンで出土した中世イラン語のテキストの内容が見事に一致している.このテキストはマニの昇天の様子を描写しており,これにより当該の断片は,マニの涅槃(あるいは彼の一生)を描いた絵画の断片であることを明らかにできた.これは論文として刊行した. 別に近年,中国福建省霞浦村で発見されている,清朝時代のマニ教漢文文献についても研究した.その内の一つの文書にある,「四寂讃」という表題をもつ漢文としては意味不明の漢字の羅列が,中世イラン語(この場合はパルティア語と中世ペルシア語)の讃歌の音写であることを発見した.その音写自体は,用いられた漢字音から,唐の時代に作成されたものであることも明らかにすることができた.この発見は2013年9月にロンドンで開催された国際マニ教学会で発表し,その内容を論文にまとめた. さらに,大阪の杏雨書屋が保管する中央アジア出土文献のなかに,マニ教中世ペルシア語の文書を発見し,解読するとともに,内容を比定して論文として発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
日本に現存するマニ教絵画は保存状態が極めて良い.とりわけそのうちでも私が「宇宙図」と読んでいる絵画には,マニ教の宇宙観が絵画化されている.マニ教の宇宙生成神話は,コプト語,シリア語,ラテン語,ギリシア語の他に中央アジア(トルファンと敦煌)で出土する中世イラン語(ソグド語,中世ペルシア語,パルティア語)やチュルク系のウイグル語文献および漢文文献に断片的に残されている.本研究は,これら文献資料,とりわけ中世イラン語のテキストと絵画を比較することによって,従来解釈が定まらなかったテキストの内容を明らかにすることを第1の目的として計画を立てていた.その点ではパルティア語のテキストと,トルファンで出土するマニ教絵画の図像を比較して,後者の内容を比定できたことは大きな前進であった.とりわけ,トルファンのマニ教絵画と江南のマニ教絵画に並行する図像が存在することは今後の研究にとって,大きな指針を提供してくれるものとなった. 計画には,近年福建省の霞浦村で発見された清朝時代の漢文で書かれたマニ教文献についての研究も含まれていた.なかでもそこに見られる中世イラン語の音写テキストの解明は中心的な課題であった.困難を極めることが予想されたが,幸いにも一つの讃歌を,本来の中世イラン語に復元できたことは本年度の最大の成果であり,当初の計画より以上に進展していると判断する大きな根拠となっている.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は計画最終年度に当たるため,主に成果の公開に向けた作業を行う予定である.具体的には,これまで行ってきた研究により明らかになった,中世イラン語テキストと日本に現存するマニ教絵画との関係についての研究を一冊の研究書としてまとめる計画である. 計画している著書には,今後国の内外の研究者が,これらのマニ教絵画を研究することができるように可能な限りシャープな写真を図版として掲載する.そのために美術史の専門家との共同研究を予定しており,すでに東北大学の泉武夫教授と大和文華館の学芸員である古川攝一氏,関西大学の非常勤講師影山悦子氏,アメリカ合衆国North Arizona 大学のZs. Gulacsi教授,ハンガリーのELTE大学のG. Kosa教授の承諾をとりつけている.本書は日本の読者にマニ教の教義やマニ教の歴史を解説するための導入編も添えるつもりである. この出版のための作業とはべつに,得られた研究成果の一部を海外の学会で発表する計画である.さいわい既に2つの学会から研究発表の依頼と招待を受けているので,その発表に向けた準備も行わなければならない.具体的には8月に中国の寧夏において,中世イラン語文献に関する発表をおこなう予定であり,11月にはトルコのイスタンブールで,中世イラン語の一言語であるソグド語と古代のトルコ語との関係について研究発表することにしている.
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Research Products
(7 results)