2012 Fiscal Year Research-status Report
ネイティブ不在地域で発生した新型接触言語―「アンガウル島日本語」の調査研究―
Project/Area Number |
24520502
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
DANIEL Long 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (00247884)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小西 潤子 静岡大学, 教育学部, 教授 (70332690)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 日本語教育 / 自然習得 / 言語干渉 / 言語転移 / 残存日本語 / 言語接触 / 中間言語 / ピジン |
Research Abstract |
初年度に当たる24年度にアンガウル日本語に関するフィールドワークを3度行うことができた。6月15日~23日はパラオで開催された国際シンポジウムで発表を行ない、「パラオにおける日本語」の研究はその国の歴史ともからんでくる課題だが、歴史は国の将来とも係るということを主張し、本研究の位置づけを説明した。7月27日~8月4日またパラオに渡り、コロールで生活しているアンガウル出身者の聞き調査を行なった。これまでパラオまで行けても悪天候、定期船故障、日程調整などの問題によってアンガウルに渡るのを断念せざるを得なかったが、2013年3月11日~21日、首都大博士後期課程の今村圭介と一緒に行けた。これまで聞いてきた「アンガウル島はパラオの他の地域よりも日本語がうまい」といううわさの背景にある歴史的、社会的要因を肌で感じ、直接そこで暮らしている人々、直接その歴史を生きてきた人から聞くことができた。この研究の目的は「アンガウル日本語」の記述と分析以外にも、研究課題名にある「新型接触言語」の理論的な考察と、現在の接触言語枠の中の位置づけにある。それに向けてピジン、クレオール、準クレオール、コイネー、混合言語といった接触変種とのアンガウル日本語との共通点と相違点を整理しているところである。文献には「戦後、日本人が住んでいた村とアンガウル人が住んでいた村は別々だったと書かれていますが、初年度にアンガウル島に実際に行って分かったことは、この二つの「村」は隣り合っているのであり、事実上一つになっている。これまでの聞き取り調査では、戦後、島民と日本人との間にはかなり日常的なコミュニケーションが行なわれていたことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度にできた聞き取り調査は7人である。文字起こし作業も今年度になって大きく前進した。今年度の録音とそれ以前に録ったものを合わせて24件の文字起こしができている。アンガウル日本語の実態に迫るために現在、生産面における使用語彙および使用する文法事項の記録と分類を行なっている。一方、アンガウル島民の日本語理解のレベルについてもデータを集めつつ、分析を試みている。文献調査も同時進行で行なっており、今年の3月にアンガウルを訪れたときに、小学校の図書館およびアンガウル州博物館を訪れたが、資料はむしろの方が多いことが分かった。 なお、初年度にして5件の口頭発表、活字論文がある。(1)ロング&今村圭介(2013.03) 「パラオで話されている日本語の実態 ~戦前日本語教育経験者と若年層日本滞在経験者の比較~」『人文学報』473:1-30. (2)ロング(2012.10.11)「パラオの多言語景観」言語景観研究会、明海大学 (3)ロング(2012.11.27)「旧南洋群島パラオの日本語」奈良大学にて講演会,(4) Long, Daniel (2012.06.18) Archiving the Japanese Language Oral History of Palau for Future Generations. (paper at Symposium: "Back to the Future"Palau's Japanese Era and its Relevance for the Future. Koror, Palau) (5)Keisuke Imamura (2012.06. 18) Why is it important for Japanese to know about Palau’s past?"(同上のシンポジウム)
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Strategy for Future Research Activity |
今後の予定はフィールドワークと録音データの文字化と整理、文字起こしデータの分析、そして理論的考察である。今年度は調査のため2回パラオに行きたいと考えている。大学が休みになっている8月と3月の予定である。これまでと同じように、半構造化インタビューを行なう。今年度は既に研究の途中経過を発表する場が複数決まっている。現在英語による報告書を作成中で、夏には完成するので、8月にパラオに持って行き配布したいと考えいている。また、2013年5月11日(土)に奈良大学で開催される第151回変異理論研究会において今村圭介が「南洋日本語におけるスタイルシフトーパラオの老年層話者のデータを中心にー」、ロングが「ネイティブ不在地域で発生した新型接触言語 ―パラオ国アンガウル島からの報告―」という2件の研究発表を行なうことが決定している。また、7月10日~13日にインドネシアのTual島で開催される第9回小島嶼文化研究国際会議において二人が発表する。ロングはMaintenance of the Palauan Language in the Face of Increasing Globalisationというタイトルで、今村はThe Development of Japanese Family Names in Palau and the Maintenance of Japanese Given names in the Post-Colonial Periodというタイトルになっている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度にもこれまでと同じような半構造化インタビュー調査を継続したいと考えている。調査者は英語ネイティブのロングおよび日本語ネイティブの今村圭介(首都大学博士後期3年)の二人である。この2人体制を取ることで、日本語で話せる人には日本語で話してもらうが、日本語の調査がうまく進まない場合は、英語に切り替えることができる。英語ならば、言語データにはならないが、歴史的背景や社会的状況、言語意識などに関する貴重な証言を得ることができる。歴史的・社会的背景とは、具体的に言うと、戦後のアンガウル島の燐鉱採石場の仕事で日本人がどれぐらいいたか、どの程度島民と日常的にコミュニケーションを取っていたか、などの要因である。 しかし、次年度に、これまでのフィールドワーク型の「データ収集」を続けながらも、研究の主な目的をデータの整理と分析、解釈や理論的考察に切り替えることになる。初年度の研究でアンガウル日本語は、ネイティブの日本語に比べてかなり文法的に単純化されていることが分かったが、その原因は母語の干渉・転移にあるのか、それともより普遍的なところ(類推、パラダイムの合理化、透明性の高い方への変化など)にあるのか、これから検討したいところである。さらに、アンガウルの状況を日本人により深く知ってもらうために、パラオ人を複数日本に招待し、国際シンポジウムを開催することも検討中である。理論面の研究とは例えば次の点である。①「ピジン」と呼べるためにはどの程度の文法的単純化および均一化は必要か、②「ネイティブ不在地域における第二言語の自然習得研究」を、これまでの中間言語研究にどう位置づけるべきか、など。なお、次年度以降に大きな学会(世界小島嶼文化学会)での発表に出向く予定であるので、平成24年度の繰り越し分をこの旅費に当てたいと考えています。
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Research Products
(14 results)