2013 Fiscal Year Research-status Report
意味・統語・形態の総合的観点から行う古代日本語の副助詞の研究
Project/Area Number |
24520508
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Research Institution | University of the Sacred Heart |
Principal Investigator |
小柳 智一 聖心女子大学, 文学部, 准教授 (80380377)
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Keywords | 副助詞 / 文法変化 / 機能語 / 含意 / 推意 |
Research Abstract |
まず、前年度の研究を受けて、文法変化にどのような種類があるかという問題に取り組んだ。「文法制度化」という新たな概念を提示し、この概念のもとで文法変化が4種類に分類されることを明らかにした。前年度に提出した「機能語生産」は、この文法制度化の各種の中に位置づけられる。これによって、従来の文法変化研究よりも広範囲の現象を扱うことができるようになり、副助詞の意味変化もこの枠組みの中で正当に捉えられた。成果は論文にまとめ、「文法制度化―文法変化の種類II―」(聖心女子大学『聖心女子大学論叢』121、pp.57-76、2013.7)として刊行した。 次に、文法変化における新しい意味(文法的意味・機能的意味)がどのように生じるか、という問題に取り組んだ。「含意」または「推意」による意味発生のメカニズムを指摘し、副助詞の意味変化もこのメカニズムによって明瞭に捉えられることを示した。成果は論文にまとめ、「文法的意味の源泉と変化」(『日本語学』32-12、pp.44-54、明治書院、2013.10)として刊行した。また、文法変化の方向性に関連する研究を行い、言語変化の一般的傾向と時代的動向が個々の言語変化の要因にならないことを指摘した。その成果は「言語変化の傾向と動向」(日本エドワード・サピア協会第28回研究発表会、2013.10)として口頭発表した。 さらに、文法変化研究で言われている「(間)主観化」という定式を取り上げて、「主観」という用語を吟味した。先行研究の不備を明らかにし、「主観」「客観」「間主観性」で何を指すべきかについて検討し、「主観」という用語が文法変化の研究に期待されるほど有効でないことを指摘した。また、副助詞の形態論的研究につながるものとして、上代の「じもの」という句の考察を行った。これらはともに成果を論文にまとめ、刊行する予定。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、副助詞研究に関する文献収集、および古代語の副助詞の用例採集を継続して行った。また、副助詞研究の準備ともなる、上代語の形態論的研究を行った。この研究は、副助詞の形態論的研究に大きな示唆を与えるもので、有益な成果が得られたと考える。成果は論文にまとめ、次年度に刊行する予定。 昨年度から開始した文法変化の研究も相当に進めることができた。後者の研究を進める過程で、副助詞の意味変化をこれまでより明瞭に把握することができ、副助詞研究を、副助詞だけを念頭に置く視野狭窄のものにせず、広い視野の下に行おうとする本研究全体の趣旨にも適うものである。その成果は「文法制度化―文法変化の種類II―」(聖心女子大学『聖心女子大学論叢』121、pp.57-76、2013.7)および「文法的意味の源泉と変化」(『日本語学』32-12、pp.44-54、明治書院、2013.10)の2編の論文として刊行し、「言語変化の傾向と動向」(日本エドワード・サピア協会第28回研究発表会、2013.10)として口頭発表した。口頭発表に基づく論文は、次年度刊行の同学会の機関誌に掲載される予定。また、「主観化」と呼ばれる文法的意味の変化に関する研究を行い、この成果も論文にまとめた。次年度に刊行する予定。 当初予定していた以上の研究成果が得られたので、上記のように評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画通り、副助詞研究に関する文献収集、および古代語の副助詞の用例採集と点検を地道に行い、副助詞全体を意味・統語・形態の総合的観点から行う研究を継続して実施する。 その一方で、昨年度から始めた文法変化一般についての研究も推進する。前年度に引き続き、今年度も行ってみて、文法変化一般に関する研究が、副助詞のような個別のテーマを追究する場合に、いかに重要で有益であるかが実感され、副助詞研究と文法変化研究を並行して行うことの必要性を強く確信するようになった。今後は、文法変化一般を見据えながら、個別の副助詞の分析を行うという往還を意図して行っていく。従来の研究ではほとんど指摘されることがなかったが、副助詞の意味的特徴と形態的特徴には関連のあることが予想される。その関連を描き出すには、副助詞だけを見ていても考察が局所的かつ浅薄になりかねない。それを避けるためには、広い視野が必要であり、文法変化研究はまさにそのような視野を提供するものである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、研究推進のために必要な機材(具体的にはパソコンと周辺機器)を購入することができ、機材面で研究環境を大いに改善し、また必要な文献資料もほぼ購入することができた。ただし、作業の進捗具合や業務との兼ね合いで、資料収集や、研究に関する意見交換および学会参加のための出張を思うように実施することができなかったために、研究費の一部を次年度に繰り越すこととなった。 繰り越した今年度分の研究費と、次年度新たに交付される研究費とを合わせて、次年度は、必要な文献資料を購入し、資料収集や、研究に関する意見交換および学会参加のための出張を実施することを計画している。
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