2016 Fiscal Year Research-status Report
江戸語・東京語におけるコミュニケーション類型の研究
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24520510
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
小川 栄一 武蔵大学, 人文学部, 教授 (70160744)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 夏目漱石 / 談話分析 / コミュニケーション類型 / 江戸語 / 東京語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の成果は2点ある。一つは単著論文「漱石作品における「翻弄の発言」」(『武蔵大学人文学会雑誌』第48巻2号 2017年3月)である。「翻弄の発言」とは、相手の心理を揺さぶって、話し手に有利な状況を実現しようとする発言のことで、典型的な例として、漱石作『行人』において一郎の妻お直が義弟の二郎に対して行った会話がある。「翻弄の発言」はJ.L.オースティン(1911―60)のいう「行為遂行的発言」の一種で、「発語媒介行為」とみることができる。オースティン以前に、「行為遂行的発言」や「発語媒介行為」は言語学的に認識されてこなかったが、漱石はオースティンの認識よりも以前に「翻弄の発言」を文学の表現に用いている。このことより漱石が「翻弄の発言」の表現効果をオースティンに先がけて充分認識していたことが推測される。本稿では『行人』の「翻弄の発言」について他作品の類例を視野に入れつつ談話分析を行った。 もう一つは、最近数年間にわたる成果として研究報告『漱石作品を資料とする談話分析 漱石の文学理論に裏付けられたコミュニケーション類型の考察』(私家版163ページ。約20万字)の原稿を完成させた。以下に目次を示して、内容の紹介に代える。 第1章 漱石作品研究の意義 第2章 漱石と近代の日本語1-作品における標準語法の採用- 第3章 漱石と近代の日本語2-漱石自身の東京語- 第4章 漱石と近代の日本語3-書簡文における口語体- 第5章 漱石の文学理論と会話の表現 第6章 漱石作品に現れるコミュニケーションの類型 第7章 伝聞のコミュニケーション 第8章 翻弄のコミュニケーション 第9章 解釈のコミュニケーション 第10章 「うそ」のコミュニケーション 終章 漱石作品のコミュニケーション類型と文学理論 主要参考文献・資料一覧
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で述べたとおり、1年間の研究成果として、単著論文「漱石作品における「翻弄の発言」」を発表し、最近数年間にわたる成果として研究報告『漱石作品を資料とする談話分析 漱石の文学理論に裏付けられたコミュニケーション類型の考察』の原稿を完成させた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究報告『漱石作品を資料とする談話分析 漱石の文学理論に裏付けられたコミュニケーション類型の考察』の完成した原稿をもとにして、印刷・製本した冊子を200部作成する。これらを広く研究者に発送し、その批評を取り入れるなどして、研究の完成をめざす。最終的には著書として刊行する予定である。 研究をさらに発展させるために「日本語資料データベース」(仮称)を作成し、研究資料として活用する。 最近の研究成果を、平成29年9月に開催予定の中国・西安外国語大学公開講演において口頭発表する予定である。すでに西安外国語大学の関係者より招聘を打診されている。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、平成28年度において、研究成果報告『漱石作品を資料とする談話分析 漱石の文学理論に裏付けられたコミュニケーション類型の考察』を刊行する予定であって、そのための印刷・製本費、通信費等としての使用を予定していた。しかし、原稿の作成が遅れたため、補助事業期間延長申請を行った。その結果として次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
「理由」で触れた研究成果報告の印刷・製本費、通信費等として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)