2014 Fiscal Year Research-status Report
小学校「外国語活動」への英語初期リテラシー指導導入可能性の考察
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24520703
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
池田 周 愛知県立大学, 外国語学部, 准教授 (50305497)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 外国語活動 / 音韻認識 / 教員意識 / 初期リテラシー |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、主としてこれまでの理論研究の成果を踏まえ、「外国語活動」への英語初期リテラシー指導導入に向けて、英語音韻認識技能の「どの側面を」、「どの程度まで」指導すべきかについての具体的考察(1)、および「英語リテラシー獲得に必要な音韻認識の発達」に関して日本語を母語とする英語学習者に焦点を当てた実証研究が少ないことから、小学生3~6年生の英語音韻認識の特徴を明らかにするための調査(2)を中心に研究を進めた。 まず1について、音韻認識のL1からL2への転移は、L1の音韻構造がL2より複雑な場合に起こる可能性が指摘されている。日本人英語学習者の場合、仮名文字に相当するモーラのような比較的大きな音韻単位の認識を必要とするL1の音韻認識は、音韻構造が複雑で、大小いずれの音韻単位の認識も必要とされる英語の音韻認識への転移可能性は低いと推察した。特に英語リテラシーの獲得には、様々なレベルの音韻認識が必要であることから、日本人英語学習者も英語の音韻構造特有の認識を高める必要があることを指摘した。さらに英語母語習得における先行研究に基づいて、音韻認識指導で扱われる技能の困難度に、操作対象となる音素の単語内での位置や音韻単位の大きさが影響を及ぼすことを指摘した。 また2では、日本語を母語とする小学生の英語音韻認識技能に現れる日本語音韻構造の特徴の影響を明らかにした。例えばオンセット・ライムという、個々の音素より大きいが音節より小さい音節内単位をもつ英語を母語とする子どもは、C1VC2語をC1+VC2に区切る一方、モーラ(CV)の音韻単位を基本とする日本語母語話者の子どもはC1V+V2の区切りで単語を認識する傾向性がうかがえた。結果を基に、L2リテラシー獲得に向け音韻認識を高めるためには、L1とL2の音韻構造の特徴を比較しながら、L1特有の音韻処理の影響を受ける音韻認識技能について明示的指導を行う必要性を主張した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度より現在まで、実際の小学校「外国語活動」指導現場における英語の文字や読み書き技能の扱われ方について調査を続け、さらに今後の小学校段階での英語の教科化に向けた動向も考慮しながら、これら初期リテラシー技能の導入に「先行して」音韻認識を発達させる必要性について考察を続けてきた。平成25年度までには、小・中学校教員の「小学校段階での英語リテラシー導入」に対する意識調査と結果分析を終え、「英語嫌い」を生み出すべきではないという懸念がある一方、英語指導経験が増すにつれ「リテラシーを導入していく利点」についての認識が高まるといった、授業観察だけではうかがえない側面も明らかにすることができた。 理論研究からは、リテラシー技能獲得における音韻認識の役割について、近年、特に英語母語習得の分野において、就学時の音韻認識レベルがその後の読み書き能力発達を予測する、あるいは音韻認識の発達と読み書き能力発達の促進関係は双方向的であるという主張があり、音韻認識の発達がリテラシーの発達に必要不可欠であることを論じてきた。さらに、日本人英語学習者にとって、L1である日本語とL2である英語の音韻構造の基本単位の大きさが異なるため、L1の音韻認識の転移可能性が低く、英語の音韻認識に必要な「音素」という最小音韻単位レベルで音を操作する技能を明示的に指導する必要性があることを主張した。平成26年度には、本研究が着目する「リテラシー獲得に必要な音韻認識発達」について、日本語母語話者の英語習得に関する実証研究がほとんどなかったため、それを補うべく当初計画にはなかった小学生3~6年生の英語音韻認識の特徴、および「どのような」音韻認識技能(=音の操作)が困難かに明らかにする調査を行った。日本語を母語とする英語学習者の音韻認識についての具体的な情報は、今後構築する指導法に反映すべき重要なデータとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては、まず前年度に小学校対象に行った音韻認識発達の調査データについて、より踏み込んだ分析を行う。これまで、音韻認識技能のうち「音の分類」は、英語母語話者と日本語母語話者とも年齢、すなわち認知的発達に伴ってある程度高まることが分かった。また音韻認識タスクの困難度が「認識」、「結合」、「分割」、「削除」の順に高まり、同じタスクでも、操作する音素の単語内での位置や操作する音韻単位の大きさにより困難度が異なることを明らかにした。例えば、CVC語では、語尾よりも語頭の子音の操作の方が容易であり、個々の子音よりもクラスターの一部である子音の操作の方がより認知的負荷が高い。これらの結果に加え、日本人を母語とする英語学習者に対する音韻認識指導プログラムを構築するためには、さらに個々の音(日本語には存在しない英語の子音など)の観点から、音韻操作の困難度を体系づけて提示する必要がある。結果は、学会発表と論文により公表するとともに、音韻認識技能を「どの程度まで」「どのように」指導すべきかを主張する裏づけとする。 同時に、小規模校だが、実際に本研究から得られた成果を小学校現場で応用する予備的指導を行う。音韻認識指導は文字導入に先立って行われるべきであり、導入時期として適切なのは3・4年生段階と考えられる。また実際の指導を通して得られる、日本語を母語とする小学生に親しみのある語彙やタスクについての情報も、指導プログラム構築において有効活用する。 さらに、音素を音韻の最小単位とし、音節内の音の区切りも存在する英語のリテラシー獲得において、音節など大きな音韻単位の認識だけではなく、「より繊細なレベルの音韻認識を発達させること」の必要性について、海外の小学校教員や大学院生などを対象に公表する機会を得た。これを含め、これまでの研究成果を幅広く公表していくことも、今後の研究推進方策である。
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Causes of Carryover |
平成26年度末の段階で、「次年度使用額」が生じたのは、主として以下の理由による。 1.平成26年度に実施した小学3~6年生対象の音韻認識発達に関する調査のデータ分析において、タスクや音の操作に必要とされる認知処理の違いによる音韻認識技能獲得の困難度は明らかになったが、個々の音(音素)の違いによる操作の難しさについての考察の必要性を認識していたものの、年度内に終わらせることができなかった。また、2.「今後の研究の推進方策」にも記述したように、英語リテラシー獲得のために発達させるべき音韻認識レベルの多重性についての研究成果をタイの大学で公表する機会を得たため、改めて言語の音韻構造の違いによるリテラシー獲得プロセスの違いに関する理論研究を深めるとともに、これまでの論点や主張を再度整理することが必要になった。そのため、実際の指導プログラム構築が当初予定より遅れ、資料や教材の購入費などの執行が遅れた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由により生じた「次年度使用額」は、次の計画に従って使用する。 1.平成26年度に実施できなかった、小学生の音韻認識発達に関する調査データの音素観点からの分析を行う。特に、日本語には存在しない英語の音(音素)について、それらの特徴を音声学の知見から充分に理解できるよう十分な考察を行う。2.研究最終年度として、当初計画に沿った研究(英語母語話者対象の初期リテラシー指導に関する文献資料収集と分析考察、および日本の小学校英語教育カリキュラムに合わせた指導法の構築)を進め、実際に小学校現場で実践する。そのための教材作成も行う。3.タイの大学におけるこれまでの研究成果の公表のために、リテラシー獲得における音韻認識の役割について言語比較の観点を拡げて考察する。4.上記1および2の成果を学会発表および論文にまとめて公表する。5.研究最終年度として、本研究事業全体の成果をまとめる。
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