2013 Fiscal Year Research-status Report
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24520733
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
井上 勝生 北海道大学, -, 名誉教授 (90044726)
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Keywords | 日清戦争 / 東学農民戦争 / 甲午農民戦争 / 農民戦争 / 日本近代史 / 朝鮮近代史 |
Research Abstract |
昨年度は、大きく二つの成果をあげた。 1)東学農民戦争の戦闘状況は、これまで朝鮮半島中・南部、全羅道などが注目され、朝鮮北部地域の戦闘状況が分かっていなかった。参謀本部編纂の史料などから、北部地域の東学農民軍を討伐した日本軍部隊は、東海・北陸地方で編制された部隊であることが判明した。愛知県図書館と東京大学明治新聞雑誌文庫所蔵の地方新聞を閲覧し、日清戦争当時、二つの県(愛知県と岐阜県)で地域新聞が良好に残存していることが分かったので、二地域の地方新聞を閲覧し、討伐日本軍部隊の兵士関係記事が散見されるのを見いだした。市町村史などの調査をあわせて、収集・調査を継続中である。これまで不明だった朝鮮半島北部地域・黄海道などの第二次東学農民戦争の戦闘状況、兵士と東学農民軍の社会史的状況などを具体的に明らかにする手がかりとなる史料、従軍兵士の手紙記事、戦死者記事などを見いだした。 2)1995年以来、継続してきた調査と研究成果の中心部分を2冊の研究書にまとめ、公刊した。『明治日本の植民地支配』と共著『東学農民戦争と日本』の2冊である。 東学農民軍討伐日本軍について収集した史料を整理・再検証した。見いだした重要な新史料、討伐日本軍部隊大隊長史料、また徳島県で見いだした討伐日本軍部隊・兵士の陣中日誌などを中心史料として、①討伐戦闘の朝鮮全域での展開と戦闘状況、②討伐日本軍を公使館・大本営・政府が直轄指揮した事実、③討伐日本軍が朝鮮現地で朝鮮地方官を使って強制動員などを行い、これに地方官(東学農民と対抗関係にあったが)ら多くが抵抗した事実、④討伐戦争が参謀本部編纂の戦史から全部削除された事実、その要因などを明らかにした。今日まで、日清戦争史から消されてきた、日本軍による朝鮮東学農民軍討伐戦争の位置が大きいことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)2冊の研究書を公刊し、日本軍による東学農民軍討伐作戦の実態の核心を明らかにした。成果を順次あげると、①農民軍討伐専門部隊の編制地域、大本営が部隊へ直に朝鮮出軍命令を出した事実を明らかにした。また、山口県で見いだした大隊長文書と徳島県で見いだした最前線従軍兵士の詳細で具体的な陣中日誌によって、全域で日本軍によって実行された銃殺、村落焼き払いはもとより、焼殺、拷問、銃剣による一斉殺害など、凄惨な最前線の状況がはじめて具体的に明らかになった。②討伐日本軍を指揮していたのは広島大本営であり、政府も討伐作戦立案・指揮の根幹にかかわっていたこと、日本公使館も部隊を指揮したことが明らかになった。③日本軍は、進撃すると、まず現地朝鮮地方官を使って作戦を展開した。ところが朝鮮地方官の多くは、農民軍と本来対立してきた勢力であったが、この状況で、農民軍に協力し、参加し、日本軍に抵抗し、多数の地方官が日本軍によって捕縛・押送されていたことをあきらかにできた。朝鮮ほぼ全域で、民族的規模の抗日蜂起が起きていことを明らかにした。④日本軍の討伐戦は、約四千人の兵士、約半年間におよんだ大作戦だったが、それが正史となる戦史から削除されたこと、削除された要因も解明した。 2)これまで朝鮮北部地域での東学農民軍の蜂起、それにたいする日本軍の討伐戦の実態が知られていなかった。討伐した日本軍の史料を、兵士たちが出軍した東海地方について調査し、愛知県や岐阜県の地方史などの兵士関係記事から日本軍の具体的な動静の一端を見いだすことができた。主に兵士の手紙、農民軍との戦闘による戦死者の記事(たとえば岐阜県、濃尾平野輪中の一村における盛大な葬儀記事)などであり、東海地方で現地調査に入るための手がかりをはじめて得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1)昨年度刊行した2冊の研究書で、必要部分だけ紹介した殲滅作戦大隊長文書の核心となった作戦報告書などと、殲滅戦最前線に従軍した徳島県一兵士の陣中日誌などを公刊へもって行く予定である。兵士の陣中日誌は、内容が詳細、具体的で凄惨であり、どのような形で全体を公刊するか、地元関係者を訪ねて説明し、明確な了解をつくってゆくことが必須である。 2)実態が不明で、日本では忘れられている朝鮮北部地域の戦闘状況を明らかにするために、部隊の編制地である東海北陸地域の地方新聞、市町村史類の調査を継続する。地域図書館と東京大学明治新聞雑誌文庫の地方紙の調査を継続するが、日清戦争期の地域紙の残存は限られており、欠けている分を他の地域図書館などで補って探索する。東海地方出身、朝鮮北部地域討伐部隊の兵士も、農民軍との戦闘での戦死者はほとんどいない。しかし数少ない戦死者について、詳しい関連記事が残されており、地元を訪ねて探索調査し、「戦争の記憶」を掘り起こす予定である。たとえば、黄海道海州府での戦死者は、濃尾平野の村で数千人参列した葬儀が行われたことが記事で報じられている。 3)農民軍討伐専門部隊が出軍した四国四県と山口県の調査をすでに行ったが、地方新聞類の調査も欠けたところのあったことが判明した。これまで、日清戦争が終わる時点で調査を終えていたが、その後数ヶ月、関連記事が掲載されていることが分かってきた。地方新聞の再調査が必要である。また戦死者記事など、調査の手がかりを得ている所でのなおねばり強い地元での探索、調査が必要である。 4)今年は、日清戦争120周年・東学農民戦争120周年にあたる。韓国の関係学会などからいくつかの国際シンポジウムに招待されている。研究情報を交換し、韓国側の研究文献、資料集などを購入、入手する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年、本研究に関する2冊の研究書を校了した直後、内科の病気を二つ併発し、8月と9月、10月に3度の手術をうけた。手術の結果は良好で通常通りの活動ができるようになったが、術後、しばらくの期間、安静が必要で、出張を控える必要があった。先方負担の研究会(京都大学人文科学研究所開催)参加を含めてその後、三度の出張をしたが、予定していた出張調査予定の一部を次年度に繰り越さざるを得なかった。なお、その後、なお疑われていた異常はなくなったことが検査で判明し、研究活動に支障はなくなった。また2冊の研究書は、最終校正を終えていたので刊行することができた。 1)徳島県の一兵士の陣中日誌は、内容が詳細で具体的であり、凄惨でもあるので、どのような形で公刊へとすすめるか、地元関係者と協議を重ね、明確な了解を得ることが必須である。四国四県と山口県への追加調査を行う必要がある。また、東海・北陸地方の地域新聞などを調査するために、引き続き、東京大学、愛知県図書館など地域図書館などへの出張を行う必要がある。 2)徳島県で見いだした個人所蔵の長大な陣中日誌は、貴重なものだが、借り出すことができない個人史料である。とりあえず、手持ちのコンパクトカメラで接写撮影したが、出来上がりは、解読のためにも、万一の場合の保存のためにも、きわめて不十分な撮影結果であった。調査現場の撮影をするためにも、デジタルカメラのレンズを購入し、また、現場へもって行けるパソコンを購入する予定である。研究図書、文房具、ファイリング用品などを購入する予定である。
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Research Products
(3 results)