2012 Fiscal Year Research-status Report
日本近世の芸能作品にみる「物語」の生成と社会像の再構築
Project/Area Number |
24520740
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
神田 由築 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 准教授 (60320925)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 日本近世史 / 芸能 / 物語 / 都市社会 / 芝居町 / 大坂 / 男色 / 遊廓 |
Research Abstract |
2012年度の研究成果はおもに二つある。 一つは、芸能作品の生成する社会的基盤となる芝居町についての研究である。本課題であつかう芸能作品の多くは、近世都市大坂の現実社会と密接な関係をもっている。2012年度は「物語」の生成過程を検討するために、まずはその背景となる近世大坂の芝居町について整理・考察を加えた。大坂の芝居町といえば一般的には道頓堀の立慶町と吉左衛門町をさすが、芝居町特有の景観を彩る看板や積物、茶屋の提灯などは、さらにその外縁部に居住する各種の職人・商人などによってもたらされている。こうした関係を視野に入れると、狭義の芝居町だけでなく、島之内や高津、堀江なども芝居町のいわゆる「磁界」のなかに入ってくる。その範囲は「双蝶蝶」や「八重霞」など、代表的な世話物の浄瑠璃作品で描かれる空間とほぼ一致する。また芝居町の存立は芝居小屋の経営に深く依存し、芝居興行の成否が芝居小屋の所有のありかたや、さらには町の景観にも大きく影響している(「近世「芝居町」の社会=空間構造」『近世社会史論叢』2013年4月刊行)。 二つめは、同じく芸能の社会的基盤に関わる課題として、歌舞伎芝居と結びついた男色の展開形態を追究したものである。元禄期の野郎統制においては、個々の役者-野郎レベルの奉公関係を解消して座元-役者関係として一元化することが意図されたが、結局この政策は貫徹せず、19世紀になると実際にはほとんど歌舞伎の興行にはたずさわらないとみられる、「旅役者」の「宿」(男娼を専業的に抱える抱元)が現れる(「江戸の子供屋」『遊廓社会』2013年刊行予定)。こうした芸能興行を取り巻くさまざまな環境が、芸能作品にいかなるかたちで反映され、いかなる作品世界を生み出していくのか、それが今後の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
評価の理由は二つある。 一つは、2012年度は二つの論考を執筆したが、刊行が翌年度に繰り下がったため、結果として年度内に成果を公表することができなかった点である。そのことは課題全体の進行速度とも関連して、作業が遅めであるとの反省を免れない。 二つめは、本課題の根幹にすえた「物語」そのものの分析が遅れたことである。本課題の最終的な目的は、近世の芸能作品における「物語」の生成過程を明らかにし、近世の人びとにとっての歴史観や社会観を如実に反映していると考えられる、「物語」によって構築された社会像が、いかに現実の社会と対峙しているかを描くことである。しかし2012年度の成果としては、芸能作品の生成する社会的基盤となる芝居町や、男色統制など芸能者の身分に関わることについての研究にとどまり、それらが作品の内的世界にいかなる影響をおよぼしたのかという点は、今後の課題とせざるを得なかった。 ただし、芝居町や芸能者の身分自体は、いずれ近世の芸能作品を理解するためには不可避の問題であり、本課題とも無関係ではない。 以上のことから、本課題の遂行状況は「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは2012年度に公表予定であった論考を公刊する。さらに「物語」そのものの分析を本格化して、近世の芸能作品における「物語」の生成過程を明らかにして、「物語」によって構築された社会像と現実の社会とをリンクさせて論じることに務める。あわせて、引き続き芸能者の社会的環境の解明にも継続的に取り組むつもりである。 具体的には、以下の3つの作業を並行させる予定である。1つは、現在執筆を進めている浄瑠璃の作品世界に関する論考を完成させることである。近世都市大坂で実際に起こった事件をもとにした具体的な作品に注目して、事件の発生から後日の展開までを見通しながら、近世から近代を見通して「物語」のありかたを考える。2つめは、1つめで取り上げるような世話物の作品に限らず、幅広く歌舞伎や浄瑠璃の作品から、近世社会を読み解くための論点を試験的に提示してゆくことである。3つめは、2012年度に集中的に収集を行った明治期の九州の史料を分析して、近世近代移行期に芸能者の社会的環境がいかに変遷をとげたのか、あるいはそうしたなかで、芸能者集団どうしで蓄積された関係や由緒の問題がどうなったのかについて考察を加えることである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は前半は論考の執筆を進めるため、書籍代や複写代を中心に使用する予定である。文具代、送料などもかかる予定である。後半は、2012年度から引き続いて、九州や西日本各地での史料収集を行いたいと考えているので、交通費・宿泊代を中心に使用する予定である。研究の中盤にもあたる年度なので、今年度のうちにできるだけ史料を収集したいと考えている。よって機動性を高めるため、モバイルパソコンなど機材費などのための出費も予定している。
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Research Products
(2 results)