2014 Fiscal Year Annual Research Report
日本近世の芸能作品にみる「物語」の生成と社会像の再構築
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24520740
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
神田 由築 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (60320925)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 芸能 / 近世 / 文化 / 物語 / 浄瑠璃 / 都市 / 地域 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、芸能作品を用いて「物語」の生成過程を探ることで近世芸能の社会的な意味を問い直しながら、あわせて「史実」と「物語」との照合を行い近世社会の特徴を総合的に描き出すことを目的としている。 平成26年度は、前年度に引き続き大坂市中での事件を描いた芸能作品に注目するとともに、18世紀から19世紀までの芸能文化のありかたを動態的に通観することを行った。まず前者については、道頓堀地域に茶屋(=事実上の遊所)が展開した実態と、「団七」という男伊達の「物語」の系譜とが交錯して、浄瑠璃「宿無団七時雨傘」が生み出される過程を明らかにした。また後者については、18世紀後半に「教養文化の再編」ともいうべき状況がおこり、新しい読者として登場した民衆の知や学びのありようや、当時の社会状況を反映した「物語」が数々生み出されたこと、それらの「物語」が、芸能者の「販路」の拡大や個人単位の多様な芸能者の存立を可能にして、地域・階層を超えて芸能文化が浸透する結果をもたらしたこと、などを明らかにした。 研究期間全体を通じて、「物語」の生成という観点から、現在「伝統」芸能と称される近世芸能の歴史を段階的にとらえることが可能になったと思われる。すなわち、18世紀後半に成立した「物語」こそ、近世社会の成熟(平成24・25年度の成果である芝居町や男色文化を含む)と教養の浸透の産物であり、明治以後も変容と持続を繰り返す「伝統」性の起点となったといえる。 最後に、具体的な作品分析をまとめた論考を公刊することを予定していたが、明治期まで対象を広げて調査する必要が生じたため研究期間中に完了することができなかったことが、反省点として残った。これについては、できるだけ早急に公表したい。
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Research Products
(3 results)