2015 Fiscal Year Research-status Report
沖縄現代史およびグローバル化時代の歴史哲学についての研究
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24520785
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
森 宣雄 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (20441157)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 沖縄史 / 民衆史 / 女性史 / 歴史哲学 / グローバル・ヒストリー / オーラル・ヒストリー / エコロジー / 社会思想史 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は第二次世界大戦終結・沖縄戦から70年の節目にあたり、本研究課題が主題とする沖縄戦後史の総括という問題設定が大きな社会性を有し、研究成果の社会への発信が促進された。 沖縄戦後史(1945~現在)とその歴史哲学を総括して21世紀の歴史学の課題を問題提起する単著『沖縄戦後民衆史』(岩波現代全書)を公刊し、また韓国の代表的な歴史研究機関である歴史問題研究所での招待講演などを行なった。 本研究課題の主たる研究成果となる上記の単著においては、実証史学と思想史の方法により、1951年の日本復帰署名運動、1956年の「島ぐるみの土地闘争」、1972年の日本復帰にいたる社会運動史、1995年以降の「オール沖縄」基地反対平和運動といった戦後沖縄の主たる政治史・社会運動史を総括し、従来の通説的な理解を大きく更新した。また、その歴史叙述から浮かび上がらせた沖縄独自の歴史哲学については、生存権・政治権力相対化の思想に立脚した循環的歴史観を提起した。循環的歴史観は古代からの民俗的な歴史観として知られてきたが、それが「戦争と革命の世紀」と呼ばれる20世紀が残した軍事化とイデオロギー対立の傷を乗りこえるための民衆思想として復興させられている事例を沖縄戦後史から提起した。 この沖縄戦後史の事例は、「アジアの世紀」と呼ばれる21世紀の世界史における新たな歴史観の台頭を例証示唆しているものと考える。20世紀後半の歴史学が生みだした民衆史、マイノリティ史、女性史、社会史などの視点を、従来からの政治史、外交史、思想史などと組み合わせることで、21世紀の新たな課題に対応したアジアの自生的な歴史叙述のあり方を示すことが同書での課題であり、それはおおむね達成できたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題の核となる①沖縄戦後史の総括的叙述、②その歴史哲学の抽出と叙述、③社会的発信のいずれにおいても所期の目的を達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに校正に入り刊行を待つ段階の研究成果として、森宣雄「安次富浩――よみがえりの海・辺野古」『ひとびとの精神史』第8巻(岩波書店)、山城博治(聞き手・編=森宣雄)「沖縄からひらかれるアジアの平和の世紀」同前第9巻、および共編著書1冊(法政大学出版局)がある。以上をもって単著1冊、共編著書2冊などの本研究課題の主たる研究成果とし、今年度は、残された課題と展望を明確にし、到達点を的確に自己批評するための補足作業を進めたい。具体的には、非合法部分にわたり史料も乏しい60年代以降の抵抗運動、女性解放の社会運動などは、通史的で総括的な歴史把握と歴史哲学の抽出を主たる課題にすえた本研究のアプローチからは十分な解明が困難な領域であり、どのような問題設定と方法論が適切か、検討を加えていきたい。
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Causes of Carryover |
2014年度までの所属研究機関が廃校し、研究環境などの大きな変更を余儀なくされたため、研究の遂行にも遅れなどの影響が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
所属研究機関の変更後、研究成果は順調にあげられており、当初の計画にもどって、この最終年度は研究の総括と、残された課題の明確化、次なる課題への展望の確定に進む。
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Research Products
(3 results)