2013 Fiscal Year Research-status Report
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24520789
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
井原 今朝男 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (20311136)
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Keywords | 財政帳簿 / 禁裏 / 禁裏幕府共同財政 / 惣用下行帳 / 即位下行帳 / 禁裏御領 / 即位伝奏 / 惣奉行 |
Research Abstract |
幕府と朝廷の共同財政帳簿であることが判明した即位下行帳の具体的な内容分析と,惣用下行帳や即位下行帳が幕府の奉行人と禁裏の官務官人によってどのように運用されていたかの具体的実態を解明することが,本研究の目的である。 (1)禁裏と幕府の共同財政帳簿である「即位下行帳」の運営に関与した公家官僚と幕府官僚のリストアップをすすめ、その集約をおこなった。その結果、公家のメンバーでは、広橋兼宣・綱光・兼顕・守光、町廣光、中御門宣胤・宣光、勧修寺経成・教秀、甘露寺清長・房長・親長・元長・伊長、三条西実隆・公条らが、儀式伝奏や行事蔵人・奉行弁として関与していることが判明した。いずれも名家・羽林家の家格をもつ中級貴族である。 (2) 共同財政帳簿である「即位下行帳」に関与する実務官人として、官務の大宮長興・時元・伊治、壬生干恒らの存在が明白になった。幕府方の共同財政運営の実務官人としては、「惣奉行」として摂津之親・元親・政親・元造、「相奉行」として松田長秀・秀俊、斉藤基雄、飯尾貞連が確認された。惣奉行は儀式伝奏の発した切符の下書を追筆する役割であり、相奉行は、連署して公方御倉に相当銭貨の支払いを命じる役割を果たしたことが判明した。 (3)即位下行帳の作成や請求書・注文・目録などの作成に関与した地下官人のリストアップをすすめ、その集約を行った。 右大史として「安倍盛俊」・「安倍盛久」、左大史として「高橋範職」、左少史として「小槻道祐」・「高橋重職」、左史生として「紀員定」・「紀氏広」「宗岡(中原)行賢」(「行事官行賢」)、右史生として「菅野職治」・「菅野国清」、右官掌として「紀氏重」「紀末重」「氏村」、左官掌として「紀助兼」、召使として「行秀」「宗岡行継」があげられた。また「主殿大夫職行」「堀川祐弘」「出納中原職盛」「高橋宗国」「行松兼清」「正六位少允藤井行吉」「同少属藤井行国」らが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の主要な目標であった「広橋・甘露寺・勧修寺・清原業忠・業賢・中原師富・大宮時元らの史料を整理して官僚組織の構造をあきらかにし、天皇の官僚組織の内実を論文化する」という課題は、拙論「天皇の官僚制と室町殿・摂家の家司兼任体制」として論文化した。これまで公開してきた諸論文を公武一体の天皇制の官僚制機構論として体系化し、仮説として室町期朝廷論をまとめることについても、達成した。それらを合わせて、論文集『室町廷臣社会論』(塙書房二○一四年二月)に刊行することができた。 研究計画の目標とした「中下級貴族や地下官人らが天皇の官吏であるとともに、室町殿・摂家の家司・家礼という家産官僚制の官人でもあったという二面性を解明する」についても、論文集『室町廷臣社会論』(前傾書)に組み込んで公開した。とくに、歴博所蔵の公家文書の研究と行政官僚組織については、歴博企画展示『中世の古文書』(小島道裕研究代表)の一部として公家文書の展示を担当して、実物史料群の公開展示をおこなった。展示図録『中世の古文書―機能と形―』(歴博二○一三)で史料解説を担当し公開した。歴博フォーラム『中世の古文書』において「中世公家における家政と文書」の講演を行い、天皇の発給文書である「綸旨」「院宣」「奏事目録」「伝奏奉書」などの公文書は、禁裏の場で作成されたのではなく、名家・羽林家の家文書として本人と家政職員によって作成されていた構造をあきらかにした。pp1-602)を公刊することができた。 中世の禁裏財政を支えた中世の経済社会と飢饉や気候変動による「富裕と貧困」問題について,拙論「生業論からみた富と貧困の淵源」作成した。その研究成果を論文集、井原今朝男編『富裕と貧困』(竹林舎、二○一三年五月)として刊行した。 以上、最終目標を一年前倒しで達成することができたと自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
残す課題は、① 中世禁裏の財政帳簿の作成過程を史料から再現することが第一の課題である。先代の天皇の即位下行帳がどのように残され、それがどのような書写てつづきで作成されるのか。さらに、先代の即位式での支出額が、そのように増減の査定による当代の天皇の即位下行帳の予算書になっていくのか、その作成過程をあきらかにすることである。下行帳をめぐる天皇と室町殿との最終意見調整過程などの解明もあわせてすすめたい。 ②日本中世禁裏の財政運営システムと、英仏プランタジネット王朝のパイプロールの財政運営システムとの比較研究を推進したい。初年度に南フランスを支配していたイギリスのプランタジネット王朝の財政運営システムについて基礎データを入手した。英仏百年戦争前後の中世王朝の財政運営の方式が、日本の中世朝廷・幕府の共同財政運営システムとの比較史研究をすすめるための基礎データを集積したい。欧州王朝も日本朝廷でも、当事者が先に必要経費で出費をして、領収書を根拠に、王室に支払いを要求するという請求システムによる財政運営を行っている点で共通している。債務債権関係を前提にした財政運営システムであり、債務史や質経済・貸付取引・貸借契約を前提にした経済史研究を進展させていきたい。 ③ 即位式の財政運営研究の当初目標が、一年前倒しで達成できたので、中世天皇の葬儀・諒闇という仏事での財政執行システムの基礎的研究に取り組んでいく計画である。葬儀での財政支出のために禁裏御領からの年貢が調達されていた具体的な史実をかいめいするように研究計画を一部変更して研究活動を推進したい。
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Research Products
(11 results)