2012 Fiscal Year Research-status Report
中華民国期における西北「回民軍閥」の基礎的研究:非漢人系「軍閥」の事例研究として
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24520813
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
安藤 潤一郎 東洋大学, アジア文化研究所, 客員研究員 (10597157)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 回民軍閥 / 西北回民反乱 / 河州 / 軍事勢力の形成 / 多民族混住 / 清朝の衰亡 / 中華民国初期 / 民族問題の生成 |
Research Abstract |
本年度は、まず、関連先行研究の概要・論点をあらためて整理・検討するとともに、本研究遂行のための基本リソースとなる史料/資料の調査・収集に着手した。近年来叢書・史料集の形で新しく出版された文献に関しては可能なかぎり購入し、あわせて、日本国内および中国の図書館・研究機関に収蔵された古い文献に関しても閲覧と複写に努めた。現在までに収集しえた主な文献は、A.西北「回民軍閥」各勢力の系譜・族譜史料類、B.馬福祥・馬鴻逵・馬歩芳ら「回民軍閥」リーダーの言論が記された公的文書や新聞・雑誌資料類、C.甘粛・寧夏・青海の地方志と「文史資料」類、D.清末・中華民国期の西北諸省旅行記などである。 さらに、上記の史料/資料にもとづいて、研究の第一段階をなす〈西北「回民軍閥」の形成過程と基本的性格〉についての考証・分析を進め、19世紀中葉のムスリム反乱の中から形成された甘粛省河州地方の回民武装集団が、清末・中華民国初期の歴史的文脈の中でどのように強力な軍事勢力へと成長していったのか、リーダーたちの意識・スタンスなどにも着目しつつ考察した。この作業により、西北「回民軍閥」諸勢力勃興の政治的・社会的プロセスを詳しくあとづけたほか、そうしたプロセスは、①〈多数のエスニック集団がモザイク状に混住する西北諸省の地域特性〉、②〈河州の回民社会が持つ羊毛・アヘンなどの交易活動との深いかかわり〉、そして、③〈1890年代から1910年代にかけての中国国家の構造的転換と対外的危機がもたらした「近代的な」国家政治の西北諸省への浸透〉と密接に連関していた点をも、具体的に明らかにすることができた。 これは、より広く、中国における「近代の民族問題」の生成を考えるうえでも、参照価値の高い事例になりうると思われる。 なお、以上の研究成果は、論文・研究ノート各1篇にまとめたうえで、目下学術誌への投稿を準備している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記の「研究実績の概要」欄にも記したように、本年度は、研究の基本リソースとなる史料/資料のできるかぎり網羅的な調査・収集に努めるとともに、交付申請書に所載の「研究の目的」のうち、第一段階にあたる〈西北「回民軍閥」の形成過程と基本的性格〉について、主に甘粛省河州地方出身の馬安良系、馬福祥系、馬麒・馬麟系の三大家系に注目し、詳しい考証・分析を進めた。 史料/資料の調査・収集に関しては、公刊文献の購入と、日本国内および中国北京の図書館・研究機関に所蔵の文献の閲覧・複写は予定どおりにおこなえた。ただ、夏季休暇中の中国渡航の際、ちょうど日本政府の尖閣列島国有化に伴う「反日」デモの拡大が生じ、いくつかの地方都市での情勢の緊迫が報じられたため、北京から地方への移動を取りやめた結果、当初予定していた中国第二歴史档案館、ならびに甘粛省・寧夏回族自治区・青海省の図書館・文書館での資料調査はできなかった。 また、交付申請書には、本年度中に研究の第二段階である〈西北「回民軍閥」の地域権力としての特徴〉の検討に入る予定であることを記載したが、収集しえた史料の分量が予想以上に多かったこともあって、実質的な作業は開始したばかりの段階である。 研究の第一段階の成果の公表に関しては、上記のとおり、その主要部分を論文および研究ノート(先行研究のレビュー)各1篇にまとめ、目下、学術雑誌への投稿を準備している。平成25年中には公刊されるようにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度においては、以下の方向で研究を推進する予定である。 (1)引き続き史料の調査・収集に努め、とりわけ、平成24年度に実施できなかった甘粛省・寧夏回族自治区・青海省の図書館・文書館での資料収集をおこなう。 (2)研究の第二段階である〈西北「回民軍閥」の地域権力としての特徴〉についての考証・分析を進め、主に馬福祥系と馬麒・馬麟系の二つの勢力に関し、彼らはいかなる思考・意図・論理のもとに、いかなる形態の地域支配を進めたのか、①地域社会との相互作用および地域統合の形、②イスラームの信仰および宗教界との関係性、③「回民軍閥」政権の経済的・財政的基盤の動態という三つの方面から具体的に検討する。 (3)次に、研究の第三段階である〈西北「回民軍閥」と中国国家との関係性〉――すなわち、西北「回民軍閥」は「中国」に対していかなるスタンスとアイデンティティを有し、自らの宗教性・エスニシティとどう関連づけていたのかについて、国際関係の文脈との動向との相互作用にも留意しつつ、集中的な考察を試みる。とりわけ、中国国家が解体の危機に瀕した日中戦争の時期、日本側の大規模な「回教工作」にもかかわらず、彼らがなぜ「分離」の方向へ向かわなかった(向かえなかった)のか、整合的な説明を探求してみたい。 (4)以上の文献資料に基づく研究と並行して、可能であれば、甘粛省・寧夏回族自治区・青海省のうち一カ所もしくは複数の地域において、補足的なフィールドワークも実施する。在地の老人や郷土史研究家に対する若干のインタビューや、重要と思われる清真寺の訪問などが、具体的な内容となる。ただし、フィールドワークの可否については、現時点では微妙な部分もあるので、万一不可能となってしまった場合は、追加の資料調査に切り替える予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、夏季休暇中の資料調査のための中国(北京)への渡航が、いくつかの本研究課題外の用務と私用を兼ねてのものであったため、本研究費からの旅費支出を請求しなかったのに加えて、上欄所記の理由で北京以外での資料調査を取りやめた結果、海外旅費と閲覧・複写関連費用に当てるべく予定していた金額が未使用となり、次年度に繰り越す形となった。次年度においては、資料調査・フィールドワークのための中国渡航(1回ないし2回)と、本研究の一部成果の国際学会における発表のためのドイツ渡航を計画しており、前年度からの繰り越し分も含めた研究費の相当部分を、これらの渡航旅費と現地での史料/資料の閲覧・複写関連費用として申請する予定である。 また、平成24年度同様、公刊史料類と研究書の購入、ならびに、研究上の作業に用いるためのPC周辺機器、文房具類などの購入にも一定の金額の支出が見込まれる。 人件費・謝金に関しては、フィールドワークの可否をはじめ、現段階では不確定的な要素が多いため、事前に支出計画を立てるのは難しい。残額およびその他の使用計画の状況を見ながら、適宜「その場で」判断していきたい。
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Research Products
(1 results)