2013 Fiscal Year Research-status Report
中華民国期における西北「回民軍閥」の基礎的研究:非漢人系「軍閥」の事例研究として
Project/Area Number |
24520813
|
Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
安藤 潤一郎 東洋大学, アジア文化研究所, 客員研究員 (10597157)
|
Keywords | 中国西北 / 回民 / 回族 / 軍閥 / 地域権力 / 民族問題 |
Research Abstract |
本年度は、前年度に引き続いて史料/資料の調査・収集にあたるとともに、前年度までの成果を基礎に、研究の第二段階である〈西北「回民軍閥」の地域権力としての特徴〉についての考証・分析を進め、主に寧夏馬福祥系と青海馬麒系の二つの勢力に関し、彼らはいかなる思考・意図・論理のもとに、いかなる形態の地域支配を進めたのか、①地域社会との相互作用および地域統合の形、②イスラームの信仰および宗教界との関係性、③経済的・財政的基盤の動態という三つの方向から、具体的な検討を試みた。また、作業の過程で、上記①②③のいずれの問題点も、当初の研究計画では研究の第三段階として分析をおこなう予定だった〈各「軍閥」集団と中国国家との関係性〉と分けては論じられないことが明確になってきたため、当初の計画を変更し、二つの部面を段階的にではなく同時に考察していくことにした。その結果,以下のような点を実証的に明らかにしえた。 (1)両馬氏「軍閥」政権とも郷里である河州地方との紐帯を政治的・軍事的資源の中軸とする一方、馬福祥系集団の場合は北京政府期の「軍閥」諸派の争闘や国民革命のプロセスに、馬麒系集団の場合はチベットや新疆の「辺防」問題に深くかかわることで、地域における中国国家の「代理者」たる地位を固め、そこから地域支配/統合のための正統性と力を調達していた。よって、実際の支配の形式と諸施策も、中国ナショナリズムの文脈を色濃く反映したものとなった。 (2)両馬氏「軍閥」の宗教・エスニシティをめぐる動きも、全国規模での回民の近代主義的「民族運動」との密接な相互連関の中で展開され、中国ナショナリズムと原理主義の文脈が中核的な位置を占めていった。 (3)かくして、日中戦争開戦後、日本側の活発な取り込み工作にもかかわらず、両馬氏は重慶国民政府に従い続け、日本側の目論んだ「民族的分離独立」の契機はほとんど現れなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上の「研究実績の概要」欄にも記したとおり、本年度は、史料・資料の収集を続けるとともに、交付申請書所載の「研究の目的」の第二段階にあたる〈西北「回民軍閥」の地域権力としての特徴〉と、第三段階にあたる〈西北「回民軍閥」と中国国家との関係性〉について、申請当初の研究計画を変更し、ほぼ並行的・一体的に考証・分析を進めた。このため、たとえば日中戦争期の「回民軍閥」の動向に関しては、日本の「回教工作」とのかかわりなども含めて、研究が予定よりも進捗した反面、上記の当初計画で言うところの第二段階の問題点③、すなわち「回民軍閥」の地域支配の〈経済・財政面〉に関する考察には、大幅な遅れが出てしまっている。 一方、史料・資料の調査・収集の面では、種類・分量ともにかなり膨大な公刊史料類を新たに入手することができた。それらは中国西北各省の地方図書館所蔵文献の相当部分を載録しており、ゆえに、本年度はその分析・活用を優先すべきと考えて、昨年度末の段階で計画していた本年度の中国の地方図書館・文書館における文献調査とフィールドワークは取りやめた。 以上のごとく、研究の実際の推進過程に応じた当初の計画からの変更に伴い、ほぼ順調に進んでいる部分、当初の計画よりも進捗している部分、当初の計画よりも遅れている部分が同時に生じてきたが、全体として見ると若干の遅れは否めない。 また、中間的な研究成果の公表にも取り組みつつある。本年度は、本研究に関連して学術雑誌に論文1本が掲載されたほか、学会報告1回と研究会報告1回(=「西北「回民軍閥」と中国国家――国民革命期以降の「寧馬」の事例から」於東北大学東北アジア研究センター)をおこなった。ただし、投稿・寄稿先の刊行物の事情や査読状況、学会・研究会の主旨などにより、内容的な順序は必ずしも研究遂行の順序に沿ってはいない。これは次年度も同様と予想される。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度においては、以下の方向で研究を推進する予定である。 (1)まずは、当初の研究計画での第二段階・第三段階を合わせた本年度の作業を継続し、いちおうの完成を期す。とりわけ、大幅な遅れの出てしまっている「回民軍閥」の地域支配の〈経済的・財政的側面〉の分析には重点的に取り組みたい。 (2)さらに、その過程では、上記のとおり平成25年に度見送った甘粛省・寧夏回族自治区・青海省を訪問しての史料・資料調査、ならびに可能であればフィールドワークを実施し、データ・情報の補充に努める。フィールドワークは、在地の老人や郷土史家に対する若干のインタビューや重要と思われる清真寺の訪問などが、具体的な内容となる。ただし、フィールドワークの可否については、現時点における判断は難しいので、もし不可能だった場合は、追加の史料・資料調査に切り替える。 (3)しかるのち、関連学術分野上の理論的な視座をも踏まえつつ、研究の第一段階から第三段階までを通じた全体の最終的な取りまとめをおこなう。同時に、そうした最終成果のまとまった形での好評も準備する。 (4)また、申請時の「研究の目的」項目にも記したとおり、本研究を、中華民国期の非漢人系「軍閥勢力」の総合的な研究をおこなうための基礎作業でもある。それゆえ、平成26年度のとくに後半には、3年間の研究成果の上に立って、他の非漢人系「軍閥」の例にも目を転じ、どのような視座から、どのような比較と総合的研究が可能になるのか、予備的な考察を試みたい。具体的には、雲南省の龍雲(=「彝族」出身)勢力のケースに関し、その権力構造、蒋介石政権との関係、日中戦争期に「大後方」の知の中核となった昆明の西南聯合大学をめぐる問題などに、初歩的な検討を加える。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上の「現在までの達成度」欄にも記したとおり、平成25年度は、当初の研究計画では予定していた資料調査・フィールドワークのための中国への渡航を取りやめた結果、その旅費、ならびに現地での史料・資料の閲覧・複写にあてるべく予定していた金額を、平成26年度に繰り越す形となった。 平成26年度においては、この繰越額の大部分を、中国での文献調査・フィールドワークをあらためて実施するのに用いるほか、当該年度の交付を申請した助成金と合わせて,公刊史料類と研究書の購入にもある程度の金額を充てる予定である。 また、平成26年度は本研究の最終年度でもあるので、研究成果の最終的な公表のための諸経費の支出も想定している。 なお、人件費・謝金に関しては、フィールドワークの可否をはじめ、現段階では不確定的な要素が多いため、事前に支出計画を立てるのは難しい。残額およびその他の使用計画の状況を見ながら、適宜「その場」で判断していきたい。
|
Research Products
(2 results)