2012 Fiscal Year Research-status Report
ハンザ都市ブレーメンの変容―ハンザの厄介者から一流のハンザ都市へ
Project/Area Number |
24520836
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Nagasaki |
Principal Investigator |
谷澤 毅 長崎県立大学, 経済学部, 教授 (00288010)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ブレーメン / ハンザ / ドイツ / 国際商業 |
Research Abstract |
ハンザの盛期と衰退期以降の二つの時期を中心に、ブレーメンの商業と対ハンザ関係について検討を加えた。ハンザ盛期に関しては、以前から行っていた研究成果をある程度利用することができたので、予定よりもやや早い段階で論文(「ブレーメンの対ハンザ関係と商業」)にまとめることができた。 この論文では、まず、ハンザ盛期(14~15世紀)のブレーメンが、ほかのハンザ都市との協調性を少なからず欠いていたということ、すなわち当時のブレーメンが、後世「わがままなハンザ都市」と言われるようになった理由の一端を確認することができた。次いで、商業面では、当時のブレーメンの商業規模が、リューベックやハンブルクといったハンザの主要都市と比べてかなりの程度見劣りがし、ブレーメン商人の海外進出も、それほど盛んではなかったということが確認された。すなわち、商業というハンザの土台をなす分野での活動の度合いが少なかったにもかかわらず、ブレーメンは組織としてのハンザへの貢献の度合いが少なく、勝手な行動を取ることもあった。ブレーメンは、いわば「ハンザの厄介者」であったということを理解することができた。 もう一方で、ハンザ衰退期以降の時期についても、まずは既存の研究成果についてサーベイを行い、基本文献の読み込みやノートの作成を進めた。現在までのところ、ブレーメンの海運に関しては「エーアソン海峡通行税台帳」が長期的な動向を推し量るうえで利用可能であるということ、また、ブレーメンで徴収された関税や各種文書の記録から断片的とはいえ、海運の規模や取引相手を確認することが可能であることも分かった。これらの記録から、まずは、ハンザ衰退期(16~17世紀)のブレーメンの商業の規模や商圏の広がりを把握することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度に関しては、ハンザ盛期(14-15世紀)におけるブレーメンのハンザ内部での位置を解明することを第一の目標としていた。すなわち、ブレーメンが組織としてのハンザとどうかかわり、その商業の規模および実態はどのようなものであったかということを明らかにすることが課題であった。この目標はおおむね達成されたのではないかと考える。その理由は、当初から想定していたような史実を確認することができ、その成果を比較的早い段階で論文にまとめることができたからである。早期の論文の執筆が可能であった理由としては、これまでの筆者のハンザに関する研究成果を利用することができたこと、既存の文献や史料の利用が可能であったことが挙げられる。 ただし、この問題に関する検証はまだ十分であるとは考えていない。ハンザ盛期のブレーメンを「ハンザの厄介者」として結論付けるためには、外交や商業にまつわるさらに多くの出来事や事実を確認し、暫定的な結論を補強していく必要があるだろう。 ハンザ衰退期以降に関しても、平成24年度から文献の収集だけでなく既存の研究のサーベイを開始することができた。文献の読み込みを通じて、現在のところ16、17世紀のブレーメンの海上商業の規模と貿易のネットワーク、18、19世紀におけるブレーメンを含めたハンザ都市(ハンブルク、リューベック)の領事館の推移などの側面から、ハンザ衰退期以降のブレーメンの商業の動向を検討している。 なお、ハンザ衰退後の時期に関しては、諸都市の連合体から三都市の同盟へという視点からハンザのあり方を「衰退」ではなく「存続」という観点から捉えようという見解が、最近登場しつつある。この点に関する筆者の知識はまだ十分ではないので、この点を今後補う必要があろうと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、①ハンザ衰退後のブレーメンの商業発展、②ハンザ衰退史観の再検討、③ハンザイメージの形成と変遷の三つの側面から検討を加える。 ①に関しては、16,17世紀のハンザ衰退期に関してはデータが集まりつつあるので、18世紀に関する商業・貿易の状況を示す数量的データの収集に努める。とりわけ、ブレーメンはブレーマーハーフェンとともにアメリカ向け移民の移出港であったので、移民の輸送規模や対アメリカ貿易に関する情報が集めやすいのではないかとの見通しを立てている。移民の分析(出身地や居住先、輸送規模、頻度など)からも、ブレーメンの港湾都市としての発展を裏付けることができるのではないかと考えている。 ②に関しては、まず、ハンザ衰退に関する近年登場した新たな見解、すなわち、17世紀以降ハンザは衰退したのではなく、性格を変えて存続したとする学説に関するサーベイを行う。次いで、存続したとするのであれば、その中でブレーメンは組織としてのハンザにおいてどのような貢献をなしたのかを明らかにする。とりわけ、商館に代わる領事の各地への設置においてブレーメンはハンブルクやリューベックとともにどのような役割を果たし、これらハンザ都市とともにどのような商業を展開したかを検討していく。このような側面からブレーメンのハンザ都市としての属性がどの程度だったのかを探る。 ③については今年度から手掛ける。まず19世紀にハンザ史学会が設立された背景を探り、当時のナショナリズムの高揚がハンザ史学の発展と学会の成立にどのようにかかわっていたのかを検討する。合わせて、ブレーメンが自都市をどの程度ハンザ都市として認識していたかを、同時代の文献や新聞(関税同盟新聞)などから探っていくことを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、前年に引き続きドイツを訪れ、ブレーメンをはじめとするドイツのハンザ都市、商業都市に関する資料の収集と視察を行うことを予定している。そのための旅費として40万円を割り当てる予定である。 国内での出張としては、学会の全国大会として、日本西洋史学会(京都)と社会経済史学会(東京)の出席のために合わせて13万円を割り当てる予定である。研究会としては、国際商業史研究会と筆者が幹事を務める日本ハンザ史研究会の出席のために合計13万円を割り当てる予定にしている。また、本研究の研究成果の一部を本年度末に刊行予定の論文集に掲載することにしているが、その編集の打ち合わせのために東京への出張も予定している(7万円)。これら出張に必要な費用は合計73万円となる。 平成25年度研究費(当初の予定では115万円)からこの73万円を除いた42万円を資料購入費とする。22万円をブレーメン、ハンザ史関係の文献・史料、残りの20万円を近代ドイツ史関係の文献の購入に当てる予定である。
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Research Products
(1 results)